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津地方裁判所 平成5年(ワ)103号 判決 1999年5月11日

原告

X

外四〇六名

右原告ら訴訟代理人弁護士

早川忠宏

渡辺伸二

尾西孝志

被告

右代表者法務大臣

陣内孝雄

右指定代理人

鈴木拓児

池田信彦

山崎隆彦

小野寺宗善

意元英則

小澤孝雄

山本正道

中川正久

永田健

横山高雄

青山秀雄

一戸公俊

浅井啓史

永井幸也

岩崎秀明

牟田宏繁

阪井清志

西井幸春

高島久典

西尾崇

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、別紙1記載の都市計画道路変更決定処分のうちの別紙2記載の名称番号三.三.九一、路線名北勢バイパスのうち、起点三重県四日市市広永町川原から終点三重県四日市市采女町清水に至る部分について、同決定に基づく北勢バイパスを建設してはならない。

第二  事案の概要

本件は、被告が建設及び供用を計画している一般国道北勢バイパスの建設予定地に隣接する三重県四日市市三滝台(以下「三滝台」という。以下三重県内の地名については三重県の記載を省略する。)に住居を有する原告らが、被告に対し、北勢バイパスの建設及び供用に伴って発生する大気汚染及び騒音により、原告らに受忍限度を超える健康被害が発生するおそれがあるとして、人格権に基づいて、北勢バイパスのうち、起点四日市市広永町川原から終点四日市市采女町清水に至る部分について、建設の差止めを求めている事案である。

一  前提となる事実

1  三重県北勢地域(ここにいう三重県「北勢地域」とは、四日市市、桑名市等からなる三重県の北部をいう。)の現状

(一) 北勢地域の地勢

(1) 北勢地域は、東は伊勢湾に面し、西は鈴鹿山脈によって滋賀県及び奈良県に接している。鈴鹿山脈と伊勢湾の間は丘陵地ないし平地であり、北は木曽川を境として愛知県と接し、南は津市、鈴鹿市等からなる中勢地域へと連なっている。さらに広域的に見れば、伊勢湾の西岸地域においては、平地が南北方向に連続し、伊勢湾岸沿いにおおむね北から南へ名古屋市、桑名市、四日市市、鈴鹿市、津市、松阪市等の都市が連続して位置している。

(2) 北勢バイパスが計画されている四日市市地域は、伊勢湾岸に特定重要港湾である四日市港があり、港に接して石油化学コンビナート等の工業地帯が広がっている。工業地帯より内陸側には商業、サービス産業等の業務機能が集中した中心市街地が形成されており、中心市街地を核として、周辺に市街地が広がっている。

(二) 四日市市の人口増大と内陸部開発の進展

四日市市では、西部の丘陵地帯において住宅開発等が進み、大谷台住宅団地、坂部が丘住宅団地、三重住宅団地、かわしま園住宅団地、三滝台住宅団地、陽光台住宅団地、高花平住宅団地、笹川住宅団地等の大規模住宅団地が開発され、北西部において鈴鹿山麓研究学園都市の開発計画が構想されている。このような同市の内陸部に生じた住宅団地の開発が一因となって昭和四五年以降、同市の人口は増加を続けている。

2  北勢バイパスの計画概要

(一) 北勢バイパスは、以下のとおり、一般国道一号及び同二三号のバイパスの機能を有する道路として建設が計画されている一般国道である。

すなわち、北勢バイパスの建設事業計画は、被告(建設省)が事業を実施しようとする者(以下「事業実施予定者」という。)として立案したもので(建設省所管の道路事業として建設される。)、その建設目的は、三重県北勢地域内陸部の発展を図るとともに、既に交通量の飽和状態にある一般国道一号及び同二三号の交通混雑の緩和を図ることにある。

(二)(1) 北勢バイパスの延長、構造規格等は、以下のとおりであって、その計画路線位置図は別紙3のとおりである。

区間 三重郡川越町南福崎から鈴鹿市稲生町まで

延長 28.4キロメートル(第二名神高速道路との併設区間3.6キロメートルを含む。)

道路の区分 第三種第一級[道路構造令(昭和四五年一〇月二九日政令第三二〇号)三条による区分]

設計速度 八〇キロメートル/時(第二名神高速道路との併設区間は六〇キロメートル/時)

車線数 四車線

標準幅員 二五メートル

道路構造 切土部、盛土部、高架部、トンネル部

このうち、本件において原告らが建設の差止めを求めているのは、三滝台の東端を通過する部分を含む、三重県知事(以下「県知事」という。)が都市計画法に基づき都市計画変更手続を行った同市広永町川原から同市采女町清水までの17.34キロメートルの区間(以下「本件バイパス」という。)である。

(2) 本件バイパスのうち、三滝台の東端を通過する部分の道路構造は、別紙4のとおりであって、切土構造で、車道部、中央帯、歩道、法面等から構成され、道路全幅50.4メートル、車道部幅員二五メートル、切土高6.5メートルから7.6メートル、法面幅九メートルないし16.4メートル、縦断勾配は2.3パーセント以下であり、その完成予想図は、別紙5のとおりである。

(三) 北勢バイパスがそのバイパスとして機能を果たすことが予定されている一般国道一号及び同二三号の概要は、以下のとおりである。

一般国道一号は、東京都中央区を起点とし、神奈川県、静岡県、愛知県内の諸都市を経て三重県に至り、三重県内の桑名市、四日市市、鈴鹿市、亀山市、鈴鹿郡関町を経て滋賀県へ、さらに滋賀県、京都府、大阪府内の諸都市を経て大阪市に至る現道延長716.4キロメートルの道路で、首都圏、中部圏、近畿圏を結ぶ重要な幹線道路である。

また、一般国道二三号は、愛知県豊橋市を起点として愛知県内の諸都市を経て三重県に至り、三重県内では、桑名市、四日市市、鈴鹿市、津市、松阪市等を経て伊勢市に至る現道延長192.8キロメートルの道路で、愛知県及び三重県内の諸都市の連携強化を図るとともに、伊勢志摩国立公園等の観光のために重要な幹線道路である。

3  原告らの居住地域

三滝台は、都市計画により、第一種住居専用地域、第二種住居専用地域、住居地域又は近隣商業地域に指定されているところ、原告らは、三滝台に土地家屋を所有し、いずれも本件バイパス建設予定地の北東側約一キロメートル内に居住している。本件バイパス建設予定地と原告らの住居及び都市計画法に基づく用途地域指定との位置関係は、概ね別紙6のとおりである。

4  北勢バイパスに関して実施された環境影響評価

(一) 建設省所管の道路事業に係る環境影響評価制度

(1) 建設省所管の道路事業に係る環境影響評価は、昭和六一年三月から現在までは、以下の要綱等に基づいて実施されている。

① 昭和五九年八月二八日閣議決定「環境影響評価の実施について」により決定された「環境影響評価実施要綱」(以下「閣議決定要綱」といい、これを定めた閣議決定を「本件閣議決定」という。)

② 昭和五九年一一月二七日付け環企審第三六三号各大臣あて環境庁長官通知「環境影響評価に係る調査、予測及び評価のための基本的事項について」別添の「環境影響評価に係る調査、予測及び評価のための基本的事項」(以下「環境影響評価の基本的事項」という。)

③ 昭和六〇年四月一日付け建設省経環発第一〇号各都道府県知事等あて建設事務次官通知「建設省所管事業に係る環境影響評価の実施について」別記の「建設省所管事業に係る環境影響評価実施要綱」(以下「建設省実施要綱」という。)

④ 昭和六〇年六月六日付け建設省経環発第一四号各都道府県知事等あて建設省建設経済局長通知「建設省所管事業に係る環境影響評価の実施について」(以下「建設省実施細則」という。)

⑤ 昭和六〇年九月二六日付け建設省技調発第五一六号都道府県知事等あて建設事務次官通知「建設省所管ダム、放水路及び道路事業環境影響評価技術指針について」別添の「建設省所管道路事業環境影響評価技術指針」(以下「建設省技術指針」という。)

⑥ 昭和六〇年六月六日付け建設省都計発第三四号各都道府県知事あて建設省都市局長通知「都市計画における環境影響評価の実施について」(以下「建設省都市計画関連細則」という。)

(2) 前記の閣議決定要綱によれば、大規模な一般国道の新設・改築事業を行う者は、主務大臣である建設大臣が環境庁長官と協議して定める指針に従って、同事業の実施が環境に及ぼす影響について、調査、予測及び評価を行うものとされ、環境庁長官は建設大臣が指針を定める場合に考慮すべき調査等のための基本的事項を定めることとされている(同要綱第1の1、第2の1)。そして、これに基づき、環境庁長官によって定められたのが環境影響評価の基本的事項である。

環境影響評価の基本的事項によれば、対象事業の実施が環境に及ぼす影響についての調査、予測及び評価は、主務大臣が対象事業の種類ごとに定める指針に従って行われるものとされ(同基本事項2の(1))、その指針においては、既に得られている科学的知見に基づき、対象事業の実施が環境に及ぼす影響を明らかにするために一般的に必要と認められる調査、予測及び評価の項目並びに合理的な調査、予測及び評価の技術的な方法を定めるものとされ(同基本事項2の(4))、指針は対象事業の特性及び対象事業の実施が環境に及ぼす影響について調査すべき地域の特性に配慮して、調査等が適正に行われるように定めるものとされている(同基本事項2の(5))。そして、公害の防止に係る項目についての評価は、人の健康又は生活環境に及ぼす影響について、科学的知見に基づいて、人の健康の保護又は生活環境の保全に支障を及ぼすものかどうかを検討することにより行うところ、公害対策基本法九条[現在は環境基本法一六条に承継されている(環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律二条)。]の環境基準[以下単に「環境基準」といえば、公害対策基本法九条(環境基本法一六条)の環境基準をいうものとする。]が定められている項目にあっては当該環境基準に照らし、評価を行うことを基本とするとされている(同基本事項6の(2))。なお、公害対策基本法九条一項(環境基本法一六条一項)にいう環境基準が定められている項目には、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音があるが、このうち大気汚染については、二酸化硫黄、一酸化炭素、浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントについて、昭和四八年五月八日付け環境庁告示第二五号「大気の汚染に係る環境基準について」により、二酸化窒素について、昭和五三年七月一一日付け環境庁告示第三八号「二酸化窒素に係る環境基準について」により、それぞれ環境基準が定められている。

この閣議決定要綱及び環境影響評価の基本的事項を受けて、建設大臣が定めたものが、建設省実施要綱である。これによれば、建設省所管事業に係る環境影響評価は、当実施要綱に定めるところにより実施するものとされ(同実施要綱第1)、「四車線以上の一般国道の新設、一般国道の四車線以上のバイパスの設置(中略)[新設、バイパスの設置(中略)に係る部分が一〇キロメートル以上のものに限る。]」については(同実施要綱第2の1の②)、地方建設局等の長や都道府県知事等(同実施要綱第2の2)が、別に定める時期までに、別に定める技術指針及び手続等に従って、環境影響評価を行うものとされている(同実施要綱第3の1及び6)。そして、右事業の道路が都市計画法四条五項に定める「都市施設」として都市計画に定められる場合は、都市計画を定める者が都市計画を定めるに際し、当要綱に準じて別に定めるところにより行うものとされている(同実施要綱第7の1)。

この建設省実施要綱を受けて定められたのが、環境影響評価の実施時期及び手続等を定める建設省実施細則、建設省所管道路事業に係る環境影響評価が科学的かつ適正に行われるために必要な技術的事項を定める建設省技術指針及び都市計画における環境影響評価について定めた建設省都市計画関連細則である。

(3) なお、建設省技術指針について、細部にわたる技術的解説を加えたものとして、「道路環境整備マニュアル」(平成元年一月、社団法人日本道路協会。以下「マニュアル」という。)があり、実務的には、建設省所管の道路事業に係る環境影響評価は、建設省技術指針及びマニュアルの内容に従って行われている。

(二) 三重県における環境影響評価制度<省略>

(三) 北勢バイパスの環境影響評価の実施主体<省略>

四車線かつ延長28.4キロメートルの一般国道(バイパス)である北勢バイパスの建設事業は、建設省所管に係るものであるが、事業内容である道路が「都市施設」であるため、都市計画決定権者である県知事が環境影響評価を実施したものである。そして、県知事は、閣議決定要綱及びこれに連なる建設省実施要綱、建設省実施細則、建設省技術指針及びマニュアルに則って右環境影響評価を実施した(以下県知事の実施した環境影響評価を「本件環境影響評価」という。)。

二  主たる争点

本件バイパスの公共性並びに本件バイパスの建設及び供用によって原告らに対し受忍限度を超える健康被害等が発生するおそれがあるか否か。

1  本件バイパスの公共性ないし公益上の必要性

2  被侵害利益の性質と内容

3  侵害行為の態様と程度、権利侵害が発生する具体的危険性の有無

(一) 本件バイパスの建設及び供用に伴って発生する大気汚染の程度

(二) 本件バイパスの建設及び供用に伴って発生する騒音の程度

4  被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容、効果

三  争点に関する当事者の主張

1  原告らの主張

本件事前差止めを認めるべきか否かは、「侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察して決すべき(最高裁平成一〇年七月一六日判決)」であるところ、以下のとおり、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度、被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容、効果に照らし、本件バイパスの建設及び供用により原告らの生活及び健康に対し受忍限度を超える被害が生ずることは明白であり、本件バイパスの建設及び供用の事前差止めが認められるべきである。

(一) 差止請求の要件

(1) 公共性ないし公益上の必要性

被告は、本件バイパス建設の公共性ないし公益上の必要性を強調して事前差止めには慎重であるべきと主張するが、大規模な幹線道路等の建設及び供用によって、沿道住民の受ける利益はごく一部に過ぎず、かつ、そのような利益の多くはこれらの道路が近隣に存在しなければ受けられないというわけのものではなく、沿道住民に多少の利益があるとしても、健康被害を容認しなければならない事由とならず、道路の公共性や重要性は、沿道住民の健康被害まで容認するものではありえないというべきである。この理は、横浜地方裁判所川崎支部平成一〇年八月五日判決(川崎大気汚染公害第二次ないし第四次訴訟第一審判決。以下「平成一〇年川崎公害判決」という。)、大阪地方裁判所平成七年七月五日判決(西淀川大気汚染公害第二次ないし第四次公害訴訟判決。以下「西淀川公害判決」という。)でも明らかにされてきたことである。そして、本件バイパスも通過交通の方が圧倒的に多い道路であり、西淀川公害判決と同様の事案である。ただ、本件バイパスの建設差止請求は、西淀川公害判決とは、次に述べるように事前差止めである点で異なる。

(2) 差止基準

平成一〇年川崎公害判決は、「道路公害について二酸化窒素のみの影響によって健康被害が生じている」こと、すなわち「呼吸器の疾患に罹患し、その病状が増悪すること」を認め、国と道路公団の責任を認めているところ、これにより、国や道路公団はそのような健康被害が発生しないような防止措置を講じる必要が生じる。これは実質的に差止めを認めたことと同様の結果となる。

また、西淀川公害判決は、回避可能性に関する判示の中で、「少なくとも当該道路を供用することによって第三者に健康被害を与える危険性がある場合はその被害法益の重大性からいってそのような危険性を有したままの道路を供用することは許されないというべきであり、供用を開始する時点あるいは供用を開始した後においても、当該道路の自動車走行により沿道住民等に健康被害等を生ぜしめる危険性がないか調査し、その危険性が明らかになった場合は、そのような危険性を回避できるように道路構造(トンネル化、シェルター化、交差点の立体化等)又は道路設備(植樹帯、遮音壁、歩道等)を改善するか、道路の周辺対策(緩衝緑地、緩衝住宅等)等を行い、それらが不可能であり、あるいは実現可能な措置をとっても十分な効果をあげることができないのであれば、走行車両数自体を削減するための措置(車線削減、大型車両の進入禁止等)をとるべきである」と判示し、国が具体的かつ極めて高度な回避措置を講ずべきことを明言している。すなわち、これらの判決の立場を敷衍すれば、住民の健康被害が発生するような欠陥道路については、事前差止めの場合は、差止めを容認すべきであり、供用開始後の場合には、被害発生防止のために、あらゆる回避措置を採ることが設置者らに課せられることになると解すべきである。

(3) 事前差止めの特殊性

本件は、これから建設されようとする道路の建設の事前差止めであるところ、本件バイパスが建設され、原告らが主張する甚大な被害が発生した場合、交通量を制限したり、大型車の通行制限によることはできず、また、被害防止のための大工事には多大な費用を要し、被害を事後的に回避することは困難といわざるを得ないのに対し、現時点においては、本件バイパスのルート変更等によって、被害の回避は容易である。そして、事前差止めを認めるか否かを判断するに当たって考慮されなければならないのは、「国は付近住民に健康被害が発生する蓋然性がある欠陥道路を建設して、付近住民に対する健康被害を発生させることが許されるのか」という観点であって、国が違法な侵害行為を行うことは一切許されないのであるから、事前差止めの場合には、既設の道路の差止めと比較して、違法性の程度が低くとも健康被害が発生する蓋然性があれば差止めを認めるべきである。

(二) 差止請求の根拠となる権利(被侵害利益の性質と内容)

(1) 憲法一三条、二五条、民法七〇九条、七一〇条による人格権としての生活権

本件バイパスの供用により、原告らが侵害されようとしている権利は、憲法一三条、二五条、民法七〇九条、七一〇条により認められた人格権としての平穏で健康的な生活を営む権利である。道路騒音、大気汚染は沿道住民に甚大な精神的肉体的な健康被害を及ぼし、その被害は供用されている限り継続し、かつ、年々増大し、深刻で回復し難い状態に陥る。よって、原告らの被侵害利益の性質は、憲法上認められた基本的人権に根ざすもので、その内容は回復し難い重大なものである。

(2) 都市計画法の第一種住居専用地域における居住者としての生活権

原告らは、県知事が本件バイパスに関する都市計画決定をする以前より、第一種住居専用地域に指定された三滝台に、土地家屋を購入し、同地に居住(先住)している。都市計画法は、建ぺい率、外壁後退距離、建築物の高さ等を規制することによって、乱開発を防止し、第一種住居専用地域を最も良好な住居環境として保持し、もって同地域に居住する住民が健康で文化的な都市生活を営むことができるようにしている。このため、三滝台は、そうでない他の地域よりもその土地の取引価格は高く設定された。原告らは、このように良好な生活環境が維持されるのであれば、地価が他より高く設定されているのもやむを得ないと考え、それぞれの土地を購入したものであり、これまでも第一種住居専用地域にふさわしい住居環境を維持すべく努めてきたところ、本件バイパスの建設は、原告らの期待権を著しく侵害するものである。現に原告らの住民の中には他の道路公害の被害を避けるため転居してきた者や、良好な住居環境が保持されることを期待してあえて高額な土地を取得した者も多い。

したがって、原告らは、一般的な人格権としての生活権よりも高度な平穏で健康的な生活を営む権利を有する。

(三) 北勢バイパス建設に係る都市計画(変更)決定手続等<省略>

(四) 侵害行為の態様と程度、権利侵害が発生する具体的危険性

(1) 北勢バイパスの性格

北勢バイパスの主要な性格が、生活道路か、広域的な産業道路かを見定めることは、北勢バイパスの交通量と大型車混入率等を予測し、環境影響評価の正当性を検証する上で極めて重要な意味を有するところ、北勢バイパスは、広域幹線道路的性格と産業道路的性格をもつ道路であると位置づけるべきである。県知事の作成した環境影響評価書(以下「本件評価書」という。)によれば、「北勢地域は首都圏と近畿圏を連絡する中京圏の東西交通の要衝の一つとなっており(中略)、北勢地域内陸部の発展を図るとともに、すでに交通量の飽和状態にある国道一号、二三号の交通混雑の緩和を図る」としており、広域的役割をもたせる道路として計画されている。そして、一般国道二三号と北でも南でもつながり、東名阪自動車道ともネットワークでつながることになるから、非常に広域的幹線道路であるとともに産業道路的性格が強くなると見るのが自然である。

(2) 交通量予測(予測交通量、大型車流入率)

以上のとおり、北勢バイパスは、大規模な広域産業道路として機能し、その交通量は一般国道一号、同二三号とは比較にならないほど多くなるものと予想されるから、一日六万四九〇〇万台を前提交通量とすべきである。また、大型車流入率も著しく高い道路となることは確実であって、大型車混入率も、遥かに超えることは明白である。

これに対し、被告は、北勢バイパスが一般国道一号と同二三号の渋滞緩和を目的に計画されたものであるから、両国道の平均値を採用するのが合理的であると主張し、一日交通量四万三〇〇〇台、大型車混入率二八パーセントを前提としているが、一般国道一号及び同二三号が、主として生活道路として機能しているのに対し、北勢バイパスは、大規模な広域産業道路として機能することが予想されるから、被告の右主張には理由がない。

① 交通容量

イ 北勢バイパスは、現在建設中の四日市・土山バイパスと、東名阪自動車道の四日市インターチェンジと接続する予定となっている。また、その数百メートル東方には、幅員一六メートルの四日市環状一号線が並行して建設される予定となっており、環状一号線とも各所で接続している。さらに、東名阪自動車の西方約五キロメートルには、第二名神高速道路が建設予定であり、第二名神高速道路の四日市インターチェンジともバイパス道路で接続される予定である。さらに、北勢バイパスは、北端において伊勢湾岸道路(第二名神高速道路に供用予定)に、南端において中勢バイパスと接続し、これら大規模な広域道路との関連を考えれば、現在の一般国道一号及び同二三号等より飛躍的に交通量は増大することは明らかである。また、専門家が「一九六〇年代後半以降を見てみると、道路交通量は、常に道路整備を上回るスピードで増加してきたということで、道路建設整備によって、道路交通渋滞を解消することは、過去において、不可能であった。こういう経過を見ると、将来においても不可能であると結論できる。(中略)道路交通量そのものをコントロールする方向に政策転換が図られなければならない。」と指摘しているように、過去の経験では渋滞解消・交通の円滑化のために新しい道路を建設することは長期的に渋滞解消に役立っていないのであって、仮に、一般国道一号及び同二三号の渋滞緩和の目的で、北勢バイパスを建設しても、供用開始から遠くない時期に、北勢バイパスでも渋滞が起こることとなるのは明らかである。

したがって、北勢バイパス建設による交通量予測は、被告が採用する予測交通量による方法ではなく、交通容量を基礎にした交通量を前提とすべきである。

ロ 交通容量とは「渋滞なしに、単位時間に単位断面を通過し得る最大の交通量」を意味するところ、北勢バイパスの交通容量は、以下のとおり、一日六万四九〇〇台と算定される。

すなわち、

基本交通量 二五〇〇台/時

側方余裕補正 1.0

沿道状況補正 0.97

大型車の乗用車換算計数 二

計画水準 0.75

重方向割合 六〇パーセント

ピーク率 7.3パーセント

として、北勢バイパスの一日交通量を計算すると(大型車混入率は仮に被告の前提とする二八パーセントとする。)、以下の計算式のとおり、一日約六万四九〇〇台となる。

すなわち、本件バイパスが供用開始され一定期間が経過すれば現実に発生する交通量は、一日六万四九〇〇台程度に達すると考えられる(ただし、予測騒音や予測大気汚染濃度を計算するに当たって、原告らが前提とする予測交通量は一日六万四九〇〇台ではない。)。

ハ 交通容量を基礎とする推定交通量であったとしても、渋滞が発生しない交通量なのであるから、現実に道路が建設され供用が開始された場合の交通量、すなわち、渋滞が引き起こされる交通量より少ない。また、仮に、基本交通量を被告が前提とする二二〇〇台としても、一日当たり約五万七一〇〇台であって、被告が想定する一日あたり四万三〇〇〇台と比べて、一万四一〇〇台も多くなるのであって、被告が採用する四日市市「三滝台・浮橋」地点で一日四万三〇〇〇台という予測は明らかに甘い予想である。

② 大型車混入率

一般に、広域産業道路では大型車混入率が著しく大きいのみならず、その混入率は夜間及び早朝においてもほとんど減少することはないところ、前記のとおり、北勢バイパスは広域産業道路の性格を有し、大型車混入率が被告の主張する二八パーセントをはるかに上回ることは明らかというべきであって、特に静穏を必要とする夜間・早朝の時間帯において、長時間大型車の発する騒音・振動・排気ガスによる被害に原告らがさらされることは確実である。

③ 東名自動車道の交通量調査による原告らの予測の検証

以下に述べるとおり、原告らが実施した環境影響評価(以下「自主アセス」という。)の際行った東名阪自動車道の交通量調査の結果によれば、原告らの主張する交通容量を基礎とした推定交通量の方が、被告らの実施した環境影響評価で前提としている予測交通量よりも合理的であることは明らかである。

イ 調査結果

東名阪自動車道の全交通量は、北勢バイパスにかかる被告の予測交通量である一日当たり四万三〇〇〇台をはるかに上回る一日当たり五万一七六九台であり、このことからすれば、原告らの主張する交通容量による予測交通量である一日当たり六万四九〇〇台、あるいは、基本交通量が二二〇〇台であることを前提として計算した一日当たり約五万七一〇〇台の推定交通量の方がより合理的であることを裏付けている。

この際測定された大型車混入率は、被告の予測値である二八パーセントをはるかに上回る39.3パーセントであって、大型車混入率が二八パーセントに過ぎないとすることには合理性がない。

ロ 東名阪自動車道を選定した理由

東名阪自動車道は広域幹線的な産業道路であって、北勢バイパスと道路の性格が類似していること、地域的に三滝台に一番近接していること、東名阪自動車道は四車線で本件バイパスと道路の構造が同一であることからすると、原告らが、交通量調査の対象として東名阪自動車道を選択したことには合理性がある。

なるほど、北勢バイパスは、アクセスポイントの数が東名阪自動車道より相当多いが、アクセスポイントの数が違うというだけで大きく交通量が異なることは、北勢バイパスと東名阪自動車道の場合には考えられず、また、東名阪自動車道は有料道路であり、無料の道路と比べると利用者は少ないのが通常であるので、北勢バイパスの方がはるかに多くの交通量になる要素の方が強いから、原告らが、交通量調査の対象として東名阪自動車道を選択したことは不合理ではない。

ハ 交通量の測定方法

原告らは交通量調査を三回実施し、二回目と三回目は一時間のうち一〇分間または五分間を測定したが、交通量の実態を知るには十分なものであって、一日の交通量の時間的な特徴を見る上でも、十分なものであって、調査結果の正確性を失わしめるものではない。

(3) 走行速度

被告は法定速度をもって平均的な走行速度と設定するのが合理的であると主張するが、北勢バイパスの大規模広域産業道路としての特性や、北勢バイパスには信号機のある交差点がほとんどないという道路特性に鑑みると、法定速度を平均速度を設定した被告の主張は、現実とかけ離れた数値である。

(4) 予測される大気汚染

① 原因物質と差止基準

自動車走行により排出される大気汚染物質としては、先ず自動車のエンジンの稼働自体により発生するものがあげられる。エンジンの稼働自体により発生する物質は、エンジンの仕組みによって異なり、ガソリン車では一酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素及び鉛化合物があり、ディーゼル車では一酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素、煤じん及び硫黄酸化物がある。エンジンの稼働自体により発生するもののほか、自動車の走行に伴うブレーキ、クラッチ、タイヤ及び路面の摩耗により発生する浮遊粒子状物質がある。大気汚染防止法においても、一酸化炭素、炭化水素、鉛化合物、窒素酸化物及び浮遊粒子状物質を「自動車排出ガス」と定めている。このうち、原告らが、住民の健康を破壊し諸疾病の原因となる濃度として具体的に問題とするのは二酸化窒素と浮遊粒子状物質である。

そして、以下のとおり、二酸化窒素では「一時間値の一日平均値が0.02PPM」以下であること、浮遊粒子状物質については「一時間値の一日平均値が0.10ミリグラム/立方メートル以下であり、かつ、一時間値が0.20ミリグラム/立方メートル」以下であることが差止基準と考えるべきであり、この濃度を超える有害物質の排出の予測がなされる限り、差止めが許容されなければならない。

イ 二酸化窒素の濃度

住民への健康影響濃度としては、昭和四八年の環境基準である一時間値の一日平均値が0.02PPM以下であることが必要である。

WHO窒素酸化物環境保健クライテリア専門家会議は、昭和五一年、短期暴露のガイドラインとして、「公衆の健康を守るための最小の暴露レベルは、二酸化窒素について最大一時間暴露として0.10ないし0.17PPMの程度の濃度が規定されるであろうということで一致した。この一時間暴露は、一か月に一度を超えて出現してはならない。二酸化窒素と共存する他の生物学的に活性のある大気汚染物質との相互作用に関する知見によれば、より大きな安全係数つまりより低い最大許容暴露レベルが必要となろう。さらに、現時点においても、より高い感受性を有する人々の健康を守るためには、より大きな安全係数を必要とするであろう。」との勧告をしているところ、右勧告直後の環境庁の説明によれば、右ガイドラインを満足するには、二酸化窒素濃度レベルが一日平均値0.02PPM以下であることが必要とされている。これは世界の研究者によっても認められた人の健康影響濃度である。

「二酸化窒素に係る判定条件等についての専門委員会報告」は、昭和五三年三月二〇日、基本的には四疫学調査[次の四調査をいう。「環境庁六都市調査」複合大気汚染健康影響調査(環境庁)、「千葉県五市調査」同四五年から千葉、市原、君津、富津、船橋の各市において始められた大気汚染疫学調査、「大阪府、兵庫県調査」同四六年度以前から大阪府及び兵庫県において始められた慢性気管支炎に関する疫学調査、「岡山県調査」同四六年度から岡山県において始められた大気汚染疫学調査]の結果を基礎とし、環境大気中の二酸化窒素の指針として、「短期暴露については、一時間暴露として0.1ないし0.2PPM。長期暴露については、年平均値0.02ないし0.03PPM」との基準値を提案した(なお、このうち年平均値0.03PPMの数値は、東京都NOX検討委員会による四疫学調査の解析によって、科学的な根拠はないことが判明している。)。

さらに、東京都NOX検討委員会は、前記四疫学調査結果の解析の過程において、持続性咳・痰の存症率が増加を始める二酸化窒素濃度の下限として、年平均値0.016ないし0.022PPMの濃度レベルを求めている。

以上のとおり、二酸化窒素の濃度レベルが、一日平均値0.02PPM以下であることは、本件においても、合理性を有する差止基準である。

ロ 浮遊粒子状物質の濃度

浮遊粒子状物質についての健康影響濃度は、現環境基準である一時間値の一日平均値が0.10ミリグラム/立方メートル以下であり、かつ、一時間値が0.20グラム/立方メートル以下であることが必要である。この環境基準は、厚生省生活環境審議会公害部会浮遊粉塵環境基準専門委員会の提案によるものであるが、同専門委員会は、各種の研究調査資料に基づき、浮遊粒子状物質の濃度条件について、「連続する二四時間の平均一時間値0.01ミリグラム/立方メートル以下、一時間値0.02ミリグラム/立方メートル以下」を提案しているところ、右基準は十分な科学的根拠を有する。

② 接地逆転層の影響

イ 地表に近い地点の温度より地表から遠い上空の温度の方が高くなる気象現象を接地逆転というが、自主アセスにおいて行われた三滝台周辺の標高四〇メートル付近と標高二〇メートル付近の気温測定の結果、年間を通じて、どの月でも半分以上あるいはほとんど毎日、頻繁に逆転層が形成されていることが判明した。三滝台地域のどの地点でも年間を通じどの月でも、半分以上あるいはほとんど毎日接地逆転が生じている。一般に、接地逆転は、夕方日没付近から形成され、不連続線が通過するといった気象でもない限りは、夜を通じて翌朝日の出のしばらく後まで持続して存在するところ、三滝台周辺地域では、毎日のように夕方から早朝まで接地逆転が形成されている。

原告らは、平成三年一一月二三日、同月二四日、平成四年一一月二二日の合計三回、煙による拡散状況観測を行った。第三回目の観測では、前夜から晴れ、風も弱く、接地逆転の発達がみられた。点火直後、上方に上がっていった煙は、二〇メートルぐらいの高さのところから上には上昇せず、そこで押さえられたまま、その後は、上方には拡散しないまま、水平にたなびいていた。これは、この高さあたりに逆転層(リッド)が存在し、上方拡散が妨げられていることを意味している。一ないし二時間経過時点で、周辺は一面煙に覆われ、四日市市川島町はむろん、四日市市陽光台団地、三滝台団地の高台も煙でかすみ始め、原告ら居宅全般が煙で覆われた。このように風が弱く、接地逆転が形成されている場合、煙の拡散は弱く、付近に滞留すること、すなわち、風が弱い日は、自動車排出ガスが拡散せずに滞留する状態が発生することが明らかとなった。すなわち、三滝台地域の気象的特徴は、恒常的な接地逆転層の形成であるから、この点についての考慮をしないと正確な環境影響評価ができない。本件評価書によれば、四日市商業高校で、風速1.0メートル/秒以下の弱風率は年間28.2パーセント、年間の平均風速は1.8メートル/秒であるから、三滝台周辺では相当な確率で自動車排出ガスの滞留状況が発生し、原告ら全員の居住地を覆うこととなる。このように接地逆転層の形成は、大気汚染に多くの影響を与えるとともに、また、後述するように騒音にも多くの影響を与えている。

ロ 被告は、四日市商業高校の風向、風速データを参考にしているが、気象条件として決定的に重要である本地域における接地逆転が形成されることを考慮しておらず、被告の実施した予測で用いた単純な拡散モデルによる計算だけでは、各有害物質濃度の予測はできない。三滝台地域における接地逆転層の形成により、被告の予想濃度よりはるかに高い局地的な汚染発生の危険が十分にあり、これは原告ら全員の健康被害をもたらす結果となる。

③ 二酸化窒素の濃度

イ 三滝台地区における大気汚染調査の結果

原告らは、今後、北勢バイパスが供用開始されたとした場合に、大気汚染がどの程度悪化し、原告らの健康にどの程度の悪影響を及ぼすのかを予測するために、自主アセスにおいて、三滝台における現時点での大気汚染に関する調査を行ったところ、その測定結果は、以下のとおりである。

三滝台団地地内の二酸化窒素の濃度は二〇PPBないし三〇PPBであり、二酸化窒素の汚染レベルは低い。これに対して、三滝川の南を走っている一般国道四七七号線(通称湯ノ山街道)の付近の測定結果は、四〇PPBないし五〇PPBであって、車の影響が直接的に現れている。三重県の環境保全目標は四〇PPB以下であるから、三滝台の現在の汚染に北勢バイパスの影響を考え合わせると保全目標さえ守れないことになることは明白である。

なお、原告らが自主アセスにおいて行った汚染度調査の方法は、天谷式簡易測定法とアサガオによるものであるが、天谷式簡易測定法は、地域全体の面的な汚染の状態を測るには適切な方法であって、その測定結果の信頼性に問題はない。

ロ 窒素酸化物の拡散

自動車から排出される窒素酸化物は、大部分が一酸化窒素であり、これが排出後、空気中で酸化して二酸化窒素になるところ、道路端から数十メートルの間に酸化反応により一酸化窒素が減少し、二酸化窒素が増加する傾向がみられる。その減衰は著しいが、その中心は一酸化窒素であって、環境基準の指標とされている二酸化窒素は、一酸化窒素の酸化による生成と拡散による減衰が同時的に行われることもあって、その減衰はゆるやかである。要するに、二酸化窒素については距離減衰はゆるやかである。

ハ 以上によれば、二酸化窒素の濃度は、被告の予測値である0.044PPM、年平均値0.025PPMをはるかに超える結果となることは明らかであって、健康影響濃度である一日平均値0.02PPMの三倍以上の濃度となることも十分予測できる。平成三年度の県下主要幹線沿道二二地点におけるTEA法による二酸化窒素測定結果によれば、右測定結果をTEA法による一般環境大気二酸化窒素測定結果で求めた回帰式により、ザルツマン法による測定値に換算すると、年平均で0.02PPMないし0.047PPMと一般環境に比べ高濃度であるとの結果が出た。右年平均値を一日平均値に大まかに換算すると、約二倍の0.044PPMないし0.094PPMとなり、交通量の多い地点では高い値を示している。以上によれば、北勢バイパスも右の高い値を示す地点と同程度の交通量が予測され、右ゾーンの高い値に近い濃度となることが十分に予測される。

④ 浮遊粒子状物質

四日市市では、東名阪測定局で測定を実施しているところ、平成四年度の測定結果は、一日平均値の二パーセント除外値は0.095ミリグラム/立方メートルであり、また、一時間値の一日平均値が二日間連続して0.10ミリグラム/立方メートルを超え、一時間値の最高値は0.295ミリグラム/立方メートルであり、現行の環境基準を満たしていない。本件バイパスの交通量も東名阪自動車道を超えることが予測され、右測定結果よりも悪い値となることが予想される。この値は、浮遊粒子状物質の健康影響濃度を超えるものであり、原告らの健康被害発生の危険がある。

最近では、自動車排ガスからの浮遊粒子状物質、とりわけディーゼルエンジンから排出される微粒子(DEP)の危険性が強く指摘されるようになってきているところ、本件環境影響評価はこの点についての影響を具体的に調べていないから、不十分といわざるを得ない。

⑤ 光化学オキシダントによる汚染

原告らが自主アセスにおいて行ったアサガオ品種スカーレットオハラを用いた葉の光化学オキシダント被害調査の結果によれば、原告ら居住地のほとんどで、細胞が壊死するなどの光化学オキシダント汚染による被害が確認された。全葉数の平均が15.0で、そのうち被害葉数の平均値が4.4であった。被害率は29.3パーセントで、被害最上葉位の平均値は7.6となっている。

光化学オキシダント汚染の原因物質は、自動車の排出ガス中の窒素酸化物が、光化学反応を引き起こして生成されるもので、その八〇ないし九〇パーセント程度はオゾンである。アサガオのつるの先端の葉から数えて数枚以内に被害が発生した場合は、児童の目がチカチカしたり、体がだるいなどの症状が発生すると考えられている。三滝台のアサガオ調査から、未だ人体への影響、特に児童への影響は出ていないと考えられるが、北勢バイパスが建設され、自動車の通行量が増すことによって、児童や老人などへの人体影響が発生するものと考えられる。現段階においても、現在の汚染を軽減することが急務であり、道路建設は、三滝台地域の農産物や自然植生、そして、人体への影響を引き起こすものと予想される。

⑥ 本件環境影響評価の問題点

イ 排出量の設定

被告は、建設省の道路事業環境影響評価技術指針による値、すなわち、道路走行時における自動車の排出ガス量に関する研究(足立義雄他四名、土木研究所報告No.一六四―三。昭和五九年)に基づく値を排出係数として採用しているが、データとして古く、その推定値は現在の実状と合致しておらず、不正確であるから、少なくともその後実施された東京都の資料に基づき計算されるべきである。

ロ バックグラウンド濃度

被告は、バックグラウンド濃度を用いるに当たり極端に濃度の低い昭和五九年度の四日市商業高校における年平均値である0.014PPMを採用しているが、同測定地点での二酸化窒素の年平均値は、平成元年、同二年及び同四年でいずれも0.016PPM、同三年0.017PPMであり、通常より低い年度の測定値を採用しており、その結果、被告の予測も低く見積もられることとなっており、信用できない。

ハ 窒素酸化物から二酸化窒素への変換式

被告が採用した窒素酸化物濃度から二酸化窒素濃度を求める変換式は、他の変換式と比較し、最も値が低く出る変換式であり、二酸化窒素濃度を過小評価することとなっている。

ニ 硫黄酸化物の評価

本件評価書は、二酸化硫黄の影響を無視している。環境庁の疫学調査結果は、今日でも、二酸化硫黄の影響が存在することを示しており、二酸化窒素との複合影響等も考慮されるべきでるから、被告が本件環境影響評価において二酸化硫黄について予測も評価も行っていないのは妥当性を欠く。

ホ 被告の予測によっても、二酸化窒素濃度の予測値は、一日平均値0.044PPM、年平均値0.025PPMであり、前述した原告らの主張する健康影響濃度の二倍以上の値であり、差止基準を超えている。

(5) 予測される騒音

① 三滝台の騒音環境

三滝台団地の現在の騒音環境は、総体として四〇デシベルから五〇デシベルという程度の静けさであるところ、四〇デシベルは「図書館とか静かな住宅地の昼」程度であり、五〇デシベルは「静かな事務所」程度であって、現在は、三滝台は、良好な環境が保たれているといえる。

原告らが自主アセスにおいて実施した三滝台団地地内の騒音環境調査の方法は、時間区分ごとの資料が必要なため、何組かのグループに分かれて、簡易騒音計を使用して測定したもので、その測定数値は正確なものであるし、また、本来であれば、五秒間隔で一〇〇個の騒音測定を行って中央値をとることとなっているところを五〇個に減らして測定したが、若干の誤差はあるものの、環境影響を調べる上では、意味のある検証に耐えうるデータである。

② 東名阪自動車道の騒音を測定した結果判明した現象

原告らが自主アセスにおいて実施した東名阪自動車道の騒音測定結果によって明らかとなった事項は、以下のとおりである。

イ 騒音の中央値は、深夜には交通量が減少するため下がっていくが、騒音のピークの数値は、交通量に関係なく大型車の通行によって発生するため、夜間であっても昼間と変化がない。すなわち、自動車騒音は、大型車の影響が大きく、特に夜間の場合は顕著である。したがって、人間が大きな音に敏感に反応するという意味では、深夜であっても大きな影響がある。しかるに、被告は騒音の予測に際し中央値を用いているが、中央値をとることにより、ピーク騒音は無視されてしまうことになり、交通量が少なく、ピーク値とそうでないときとの値に大きな差が認められる深夜の場合、断続的な大きな騒音による人体に対する影響が、全く考慮されないことになる。

ロ 騒音は気象状態により変化し、道路からある程度離れた沿道域では特にその影響が大きい。中でも地表近傍の高さ、方向気温分布の影響は無視できない。夜間から夜明けの間に接地逆転層が形成される場合等には、距離減衰は小さくなり、交通量が少なくなっても日中と変わらない騒音レベルになる。

したがって、気象条件の変化、殊に接地逆転層の形成による影響を無視して、日本音響学会式や距離減衰の公式等の理論、計算式のみに依拠する机上の計算によって、環境影響評価を行うことは事実を見誤ることになり、このような方法に依拠している被告の予測は信用性に欠ける。

また、接地逆転層が形成されているような気象条件の場合、被告が効果を期待する遮音壁はあまりその効果を発揮しないといわざるを得ない。

③ 予想される騒音レベル

イ 被告は、一日平均四万三〇〇〇台の交通量を前提とし、走行速度を法定速度である時速六〇キロメートルとし、大型車混入率を二八パーセントとして将来予想される騒音を算定している。しかし、その前提とする一日平均交通量及び大型車混入率は、大気汚染の項でも述べたとおり、著しく実体に沿わない数字であり、また、走行速度も非現実的な速度である。特に、夜間の大型車混入率が、原告らの調査によって判明した程度であるとすると、騒音予測としては六〇デシベルを大きく上回ることは確実である。

ロ A地域の夜間の場合の環境基準は四〇デシベルであるから、三滝台地区における環境基準は、これを目標値とすべきであるところ、北勢バイパスの供用により、これをはるかに上回る騒音が発生することは明らかであって、受忍限度を明らかに超えるものである。なお、一般国道四三号に関する判決は、供用が開始された道路について六〇デシベル以上で損害賠償を認めているところ、右判決は、六〇デシベル以上の騒音を発生させる道路は欠陥道路であることを認めているものと理解すべきであって、本件は、事前差止めであるから、国家の違法を容認し、放置する結果とならないためにも、欠陥道路となる蓋然性が高い道路建設は同程度の違法性で差し止められなければならないと考えるべきである。

この点、被告は「A地域のうち二車線を超える車線を有する道路に面する地域」の環境基準を用いているが、これから道路を建設することが是か非か問題となっている場合に、建設される道路を前提とした基準を設定することは相当ではない。

(6) 以上のとおり、本件バイパスの建設及び供用が開始されれば、原告らに対し、環境基準を上回る大気汚染又は騒音の影響を及ぼすことが確実であり、その具体的危険性が認められる。

(五) 侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度

(1) 一般国道一号、同二三号において発生する渋滞の程度は、通勤時間帯の一時的な渋滞であり、同時間帯が経過すれば、すぐに解消されるものに過ぎず、一般国道一号、同二三号が慢性的な交通量の飽和状態にあるとはいえないから、一般国道一号、同二三号において発生する渋滞を解消するために北勢バイパスの建設が不可欠であるとはいえず、北勢バイパスの建設及び供用に高度の公共性があるとはいえない。

(2) 北勢バイパスが供用されれば、一般国道一号、同二三号の代替ルートとしての機能は果たさず、むしろ隣接する有料の東名阪自動車道の代替ルートとして機能する可能性が高く、北勢バイパスの建設及び供用による渋滞解消の効果にも疑問がある。

(3) 本件バイパスの西方には第二名神高速道路の建設が予想され、すぐ東方には環状一号線が整備される。特に環状一号線は、本件バイパスのすぐ東側をほぼ同じルートで通過させようとするものであり、環状一号線を有効に活用すれば、その機能は本件バイパスを代替するに十分であって、本件バイパスの必要性はほとんど失われる。

(4) 専門家が指摘するように渋滞解消・交通の円滑化のために新しい道路を建設することが長期的に役に立っていない事実があるのであって、仮に、一般国道一号と同二三号の渋滞緩和の目的で、「渋滞しないような北勢バイパス」を建設しても、供用開始から「そう遠くない時期」に、北勢バイパスも渋滞が起こることとなるのは過去の経験から必然であるといえる。したがって、被告の主張する渋滞解消のために北勢バイパスの建設の必要性があるという道路政策のあり方そのものに合理性があるといえるのか疑問といわざるを得ない。

(六) 被害の防止に関し採り得る措置の有無及びその内容、効果

(1) バイパスの建設以外の方法

前記のとおり、一般国道一号と同二三号の渋滞が通勤ラッシュ時の一時的な状態に過ぎないことに鑑みると、公共交通機関の整備充実化、東名阪自動車道の料金引下げ(又は通勤者の利用を図るための定期券導入)、交差点の改良等、本件バイパスの建設以外にこれを解消させる方法はいくつも考えられる。

(2) ルートの変更

仮に、被告が主張するように北勢バイパスが両国道の渋滞を緩和するため必要であるとしても、都市計画法の基本理念に反し、第一種住居専用地域の中央を通過させなければならないという必要性はない。

これに対して、被告は、三滝台住民以外の他の地域住民は、積極的に北勢バイパスの建設に協力的であることを主張しているのであるから、現行のルートを変更すれば、変更されたルート上の住民は積極的にこれに協力することが確実であり、何ら問題はないはずである。被告が心配する既成集落の近辺を通過する問題は、区画整理事業等と併用する等の工夫次第で容易に解消できる問題と思われる。

(3) 遮音壁の効果

① 騒音に関して

前記のとおり、原告らの実施した自主アセスにおける調査結果によれば、深夜から夜明けにかけて接地逆転層が形成される三滝台においては、距離減衰効果は小さく、交通量が少なくなっても日中と変わらない騒音レベルになることが予測されているから、遮音壁の設置による騒音低減効果は、十分なものとはいえない。

② 大気汚染に関して

遮音壁は汚染された大気を浄化するものではなく、排出源の位置が少し高くなることによって、その拡散を期待しようとしているに過ぎないところ、本件バイパスは原告らが居住する三滝台よりも低位置をいわゆる掘割り方式にて通過しようとするものであるから、排出源が高くなることは、より三滝台への影響を大きくする可能性もある。また、遮音壁の近くでは渦による巻込みが生じ、遮音壁がないときよりも汚染濃度は高くなる可能性もあり、遮音壁による大気汚染低減効果に大きな期待をすることはできない。

(七) 結論

以上のとおり、本件バイパスは、第一種住居専用地域の中央を通過させるという都市計画法の理念に反する計画で、その決定手続等にも問題が多く、その建設の必要性に欠けるものであり、被告(三重県)が作成した本件評価書は、特に採用したデータに問題点が多く、その信頼性は著しく低いものであるから、環境基準を上回る騒音や大気汚染が生じる具体的危険性があり、その侵害程度は大きく、原告らの被侵害利益は、憲法上の基本的人権に基づくもので、かつ、都市計画法により保護された第一種住居専用地域居住者としての高度に平穏で健康的な生活を営む権利であり、被告の主張する北勢バイパスの必要性を斟酌しても、被告の侵害行為は許されないというべきである。

そして、被告による右被害の防止策は、ほとんど効果の期待できない遮音壁の設置しかなく、本件ルートを変更する以外にこれを防止することはできないと考えられる。

よって、早期に本件バイパスのルートを変更させ、被告の主張する目的を実現させるためにも原告の請求は認容されるべきである。

2  被告の主張

(一) 差止請求権及び権利侵害

差止請求が認められるためには、①請求者が差止めの根拠となる権利を有すること、②当該権利が現に侵害されているか又は将来侵害される具体的危険性があること、③現在の侵害又は将来の具体的危険性が、侵害行為すなわち相手方(被請求者)の支配下にある事情によって生じていること(因果関係)が必要である。

そこで、本件のような事前差止めが認められるには、請求者が差止めの根拠となる権利を有することを要するところ、原告らの主張する平穏安全な生活を営む権利(人格権)」については法律上の根拠規定がなく、その概念自体不明確なもので、権利としての成立・存続・消滅の要件、その効力・適用領域等の法律効果、他の権利との優劣が明確でなく、その外延を画することもできないので、本件バイパス建設差止めの根拠としての権利ないし法的利益とは認められない。

仮に差止請求の根拠が原告らの生命・身体の安全を総体したものと解したとしても、当該行為が違法な権利侵害となるか否かを判断するに当たっては、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質とその内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容、効果等の事情も考慮し、これらを総合的に考察して決すべきものであって[最高裁平成一〇年七月一六日判決(紀宝バイパス道路建設工事等差止請求事件)]、その結果、差止めを認めることによって生ずる侵害者側の損失ないし社会的損失を無視してもなお差止めを認めるのが相当であると判断される程度の違法性のあることが必要であり、当該侵害又は侵害の具体的危険性が社会生活上一般に受忍すべきと考えられる範囲内であれば、当該侵害又は侵害の具体的危険性があっても違法性はない。そして、差止請求は、相手方の権利行使の自由を制限することになり、特に道路事業等の公共の利益・便益を供給する事業の差止めにあってはその影響は広く国民一般に及び、道路の社会経済的機能・効用を直ちに制約することになるから、この判断に当たっては、公共性、すなわち、地域間交通や産業経済活動に対して多大な便益を提供しているなどの事情が重視されるべきである。

そして、県知事が実施した本件環境影響評価の結果等に照らすときは、本件バイパスの建設及び供用により原告らの生命・身体の安全を侵害するような具体的危険性は認められない上、北勢バイパス(本件バイパス)は、三重県北勢地域内陸部の発展を図るとともに、既に交通量の飽和状態にある一般国道一号及び同二三号の交通混雑の緩和を図るための重要な幹線道路網を構成するものであって、その建設及び供用には極めて高い公共性・必要性が認められ、被告による本件バイパスの建設・供用が原告らの生命・身体の安全を違法に、すなわち、受忍限度を超えて侵害する具体的危険性のあるものということはできないから、原告らの請求には理由がなく失当である。

(二) 北勢バイパスの路線策定(ルート選定)の合理性<省略>

(四) 侵害行為の態様と程度、権利侵害が発生する具体的危険性

以下のとおり、本件環境影響評価の結果に照らせば、本件バイパスの建設及び供用によって原告らの生命・身体の安全を侵害する具体的危険性があるということはできない。

(1) 本件環境影響評価

① 手法全般の合理性

県知事は、閣議決定要綱及びこれに連なる建設省実施要綱、建設省実施細則、建設省技術指針及びマニュアルに則って本件環境影響評価を実施した。すなわち、既存文献及び既存資料に基づき地域環境を把握し、その概要を地域の自然的状況、地域の社会的状況及び環境関係法律等による規制等の状況という三項目に分け、その結果から現状調査を行う環境要素として、大気汚染、騒音、振動、地形・地質、動物をとりあげて、所定の方法にて現状調査を行い、その結果により、大気汚染、騒音、地形・地質、動物を予測・評価を行う環境要素として選定し、これらについて、建設省技術指針及びマニュアルに示した手法に従って、予測値を算出し、評価を加えている。

県知事が依拠した閣議決定要綱は、昭和四〇年代中ころから公害問題が社会問題としてクローズアップされてきた中で、政府、地方公共団体、産業界においても広く環境影響評価の必要性が認識され、その研究が進められていたところ、昭和五四年四月に「環境影響評価制度のあり方について」との中央公害対策審議会の答申が内閣に提出されたのを受けて閣議決定された(本件閣議決定)ものである。

また、右閣議決定要綱を受けて定められた建設省実施要綱、建設省技術指針は、その当時において調査・予測技術に関してできる限りの知見を集めて作成されたものである。

特に、建設省技術指針には、昭和五三年度から昭和五七年度まで建設省土木研究所を中心に行われた「沿道地域の居住環境整備に関する総合技術の開発」をいう調査研究プロジェクトにおいて検証された知見が採り入れられている。この調査研究プロジェクトには、大学教授や専門家が参加しており、権威のある委員会である。

したがって、県知事が依拠した閣議決定要綱及びこれに連なる建設省実施要綱、建設省実施細則、建設省技術指針の定める環境影響評価手法には合理性がある。

② 予測対象時期

建設省技術指針によれば、予測対象時期は、原則として、事業の実施に伴う環境に及ぼす要因(以下「環境影響要因」という。)が当該施設の設置に係るものであるときは施設の設置が完了する時期、施設の供用に係るものであるときは事業計画の目標時期、工事の実施に係るものであるときは工事中の期間とされている(同指針第5の2)ところ、道路事業では、環境影響要因が、大気汚染、騒音、振動といった、道路そのものの設置に係るものというよりは道路の供用(に伴う自動車走行)に係るものである場合がほとんどであるから、予測対象時期は当該事業計画の目標時期とするのが通常である。そして、道路の路線計画の場合、計画策定に着手しても、その後の計画決定、用地買収、建設工事に掛かる時間を考えると、一部ないし全部供用に至るまでは相当の年数が経過するのが現実であること、道路整備長期計画でも計画目標年次がほぼ二〇年後とされていることなどから、事業計画の目標時期(目標年次)を計画策定時の「二〇年後」と設定するのが通常であり、道路事業計画における環境影響評価の予測対象時期も当該事業計画策定時の二〇年後とするのが通常である。

北勢バイパスの計画の目標時期は、具体的な計画策定の進捗状況、現状調査に係る当時の最新の交通量のデータが昭和五五年に実施された道路交通センサスによる調査結果であったこと等を考慮して、昭和七五年(平成一二年)と設定された。このため、本件環境影響評価の予測対象時期も昭和七五年(平成一二年)と設定された。その後、平成二年に、北勢バイパスと一部重複する第二名神高速道路のうち「伊勢湾岸道路」の部分の計画路線について、予測対象時期を平成二二年とする環境影響評価をした。

③ 大気汚染の予測及び評価

イ 大気汚染の予測項目の選定

A 建設省技術指針第5の3の(1)では、大気汚染の予測項目は一酸化炭素及び窒素酸化物とされている。ところで、窒素酸化物については、自動車から排出される窒素酸化物も、排出直後こそ大部分が一酸化窒素であるが、大気中で徐々に酸化されて二酸化窒素となること、大気汚染における環境保全目標は環境基準に適合することであるところ(建設省技術指針第6の2の(2))、環境基準も「窒素酸化物」についてではなく「二酸化窒素」について設定されていることから、環境影響評価における予測項目としては、二酸化窒素を選定するのが通常である。

したがって、本件でも、一酸化炭素と二酸化窒素を選定した。

B 一般に自動車排出ガスによる大気汚染に関して予測項目とすべき物質としては、環境保護のため実効的な排出規制を実現するという観点からして、次の要件を全て満たすものが相当である。

Ⅰ 自動車からの排出量が一般大気中に排出される総量に占める割合が大きいこと。

Ⅱ 自動車排出ガスに含まれる排出量が把握できること。

Ⅲ 定量的な予測手法が確立されていること。

Ⅳ 環境基準のような評価のための環境保全目標が設定できること。

右四条件に照らせば、環境影響評価の予測項目として自動車排出ガスのうち一酸化炭素と二酸化窒素を選定したことは相当というべきである。

a 浮遊粒子状物質(粒径一〇マイクロメートル以下のもの)

浮遊粒子状物質については、環境基準が設定されているものの、自動車あるいは自動車交通に起因する浮遊粒子状物質には、排気管から直接排出されるもの以外にタイヤやブレーキ等の磨耗によるもの、路面堆積物の巻き上げによるものなどもあり、その排出量を把握することは困難であり、寄与率も解明されていないから、前記要件Ⅱ、Ⅲを満たさず、予測項目とするには不適切である。

b 硫黄酸化物

硫黄酸化物については、環境基準が設定されているものの、ガソリンは精製過程で硫黄分は取り除かれ、軽油についても含有量は低減しており、自動車からの排出量が一般大気中に排出される総量に占める割合は少ない。近年では自動車排出ガス測定局の全てにおいて環境基準が達成されているから、前記要件Ⅰを満たさず、予測項目とする必要性は認められない。

c 光化学オキシダント

光化学オキシダントについては、環境基準が設定されているものの、現在のところその複雑な生成過程は解明されていないことから、定量的な予測手法が確立していないから、前記要件Ⅲを満たさず、予測項目とするには不適切である。

d これらに対し、二酸化窒素については、自動車からの排出量が多く、その排出量も把握でき、予測手法が確立されていて、環境基準も定められていることから、右四要件を全て満たす。また、一酸化炭素については、現在では自動車からの排出量は著しく減少していて大気環境に及ぼす影響はほとんどないものであるが、自動車からの排出量が明らかで、予測手法が確立されており、環境基準も定められていることから、環境影響評価における大気汚染の予測項目としても不適切ではない。したがって、大気汚染の予測項目を二酸化窒素と一酸化炭素と選定したのは適切であったというべきである。

ロ 一日平均濃度の算出

A (道路寄与分のみの)年平均濃度の算出

ある一定地点での濃度は、風向・風速、排出源からの排出量、予測地点と排出源の位置関係、拡散幅[道路を走行する自動車の排気管から排出されたガスが風下側に拡散し、濃度が小さくなっていく過程で、このガスの流れ(濃度分布)を適当な時間について平均していくと、円錐形を描き、風の流れに垂直の断面では正規分布と呼ばれる曲線に近似することが知られているところ、この正規分布の広がりを示す指標である標準偏差を、大気拡散の分野では拡散幅という。]によって決せられる。

このような考え方に基づいた予測式である拡散式によって、各物質の予測地点における(道路寄与分のみの)(基準)濃度を求める。とくに、有風時(風速が一メートル/秒を超える状態をいう。)にはプルームモデルを基本とした拡散式を用いて風向別基準濃度を、弱風時(風速が一メートル/秒以下の状態をいう。)にはパフモデルを基本とした拡散式を用いて昼夜別基準濃度を、それぞれ算出する。

こうして求めた予測地点における有風時の風向別基準濃度と弱風時の昼夜別基準濃度のほか、時間別平均排出量及び時間別の気象条件を用いて、予測地点における年平均時間別濃度を算出する。そして、各時間別の濃度の二四時間平均を計算することにより、当該予測地点における(道路寄与分のみの)年平均濃度を求める。

本件でも、以下に述べるデータを用い、各物質ごとに、本件予測地点における有風時の風向別基準濃度(プルームモデルを基本とした拡散式を用いている。)、弱風時の昼夜別基準濃度(パフモデルを基本とした拡散式を用いている。)を算出し、時間別平均排出量及び時間別の気象条件を設定して、(道路寄与分のみの)年平均時間別濃度を算出した。そして、各時間別の濃度の二四時間平均を計算することにより、本件予測地点における(道路寄与分のみの)年平均濃度を算出した。

なお、プルームモデルは、有風時に点煙源から排出される煙が風によって流されていくときの煙流(プルーム)内での煙の濃度を表すモデルであるのに対し、パフモデルは、一点で瞬間的に放出された煙が空間内に広がっていく時の煙塊(パフ)内での煙の濃度を表すモデルであるが、この拡散式は、原則として、地表面が平坦で、点煙源から予測地点に向かって風が一様に吹くとみなせるような比較的単純な拡散場での予測をする場合を想定している。北勢バイパスの建設予定ルートの沿道(特に「三滝台・浮橋」地点付近)は、なだらかな丘陵地とその間の低地からなる地形であり、また、低層の戸建て住宅を主体とする地区である。したがって、道路からの大気拡散を予測する際の前提となる風の流れはほぼ一様であると想定され、拡散場は単純であるから、プルームモデルを基本とした予測式及びパフモデルを基本とした予測式を用いたことは適切である。

B バックグラウンド濃度の加算

a 計画路線における大気汚染の評価をするには、計画道路の影響(道路寄与分)のみならず、道路以外の発生源による影響も加味する必要がある。この道路以外の発生源による一般環境の大気汚染濃度をバックグラウンド濃度という。これには、国又は地方公共団体により推定された予測値等を用いるが、将来の排出量の低減を見込んで、評価当時の現況濃度をそのまま用いることも許されている。

そのため、本件においては、バックグラウンド濃度としては、当時の濃度、つまり昭和五九年度の一般環境大気測定局の測定値をバックグラウンド濃度として用いている。

予測に使用すべきバックグラウンド濃度の設定方法には、他に、国又は地方公共団体が将来の広域大気汚染環境の予測を行っている場合にはそれを使用する方法、また、将来の土地利用、排出規制の状況等から現況濃度値の変化を見込む方法や広域拡散モデルにより拡散計算を行って将来濃度を推定する方法があるけれども、いずれも排出量のデータが不明確であるなど、排出量の推定は難しい。それゆえ、調査当時の一般環境大気測定局の測定値をバックグラウンド濃度として用いたことは不適切ではない。

b なお、二酸化窒素については、窒素酸化物全体として(道路影響分の)年平均濃度が算出されるため、バックグラウンド濃度を加算する前に、一定の変換式を用いて、二酸化窒素のみの(道路影響分の)年平均濃度を算出しておくことになっているため、本件においても、窒素酸化物全体として(道路影響分の)年平均濃度を算出し、一定の変換式(窒素酸化物から二酸化窒素への変換式)を用いて二酸化窒素のみの(道路影響分の)年平均濃度を算出し、その後にバックグラウンド濃度を加算している。

<省略>

C 一日平均濃度への換算

バックグラウンド濃度を加えて求められる予測値は年平均濃度であるところ、大気汚染の環境保全目標は環境基準に適合することであり、環境基準は「一時間値の一日平均値」(以下「一日平均濃度」という。)をもって定められているから、環境保全目標を達成するかどうかを検討するためには、年平均濃度を一定の変換式によって一日平均濃度へ換算する必要がある。

なお、環境基準に適合するかどうかは、年間にわたる一時間値の一日平均値である測定値(予測値)のうち、測定値の高い方から二パーセントの範囲にあるものを除外して評価を行うものとされている(昭和四八年六月一二日付け環大企第一四三号各都道府県知事等あて環境庁大気保全局長通知「大気の汚染に係る環境基準について」第1の3の(2)、第3の2。昭和五三年七月一七日付け環大企二六二号各都道府県知事等あて環境庁大気保全局長通知「二酸化窒素に係る環境基準の改定について」第1の3の(1))。

それゆえ、右の変換式は、年間のうち低い方から九八パーセントに相当する一日平均濃度(以下「年間九八パーセント値」という。)を求めるものとなっている(以下当該変換式を「九八パーセント値変換式」という。)。

本件においても、バックグラウンド濃度を加えて求められる年平均濃度を一定の九八パーセント値変換式に当てはめて、一日平均濃度(年間九八パーセント値)を算出している。

<省略>

ハ 風向・風速

風向・風速は、対象地域の一年間のデータを調査して得られ、測定地点は、対象地域を代表するようなデータを得られる地点であることが必要であり、通常は近傍の気象官署、地方公共団体等の測定局が選定されるところ、本件においては、四日市北高校、四日市商業高校等の計四か所の一般環境大気測定局を測定地点とし、そのデータは昭和五九年度(一年間)のものである。特に「三滝台・浮橋」地点の予測には、四日市商業高校のデータを用いた。「三滝台・浮橋」地点と四日市商業高校の場合、その距離は約1.8キロメートルで、至近距離ということができ、地形的にはいずれも四日市市内陸部の丘陵地にあり、全体として東南東方向になだらかに低くなる台地上にある。実際、三滝台から三滝川を挟んで四日市商業高校を目視することができる位置にあり、気象条件の類似性を疑わせる要素はないから、「三滝台・浮橋」地点の予測に四日市商業高校のデータを用いたことは合理的である。

ニ 排出源(予測対象となる道路を走行する自動車)からの排出量

ある一定時間の排出量は、当該道路の車種別時間別交通量と自動車から排出される汚染物質の単位走行距離当たりの量(車種を考慮したもので「排出係数」といわれる。)によって決まる。

A 車種別時間別交通量

予測に用いる車種別時間別交通量は、計画路線近傍の類似した交通特性を持つ道路における現況交通量の時間変動を参考にし、予測対象時期における年平均一日交通量及び車種構成を用いて設定される。

ここにいう年平均一日交通量は、道路の設計の基礎とするために当該道路の存する地域の発展の動向、将来の自動車交通の状況等を勘案して推計されるものであり、計画交通量と同義である。

年平均一日交通量(計画交通量)の推計の基本的手法は、四段階推定法といわれるもので、予測対象地域をゾーン(区域)に区分した上、経済指標→発生・集中交通量→分布交通量→配分交通量の順に段階を追って交通量の推計を行うものである。

ここにいう経済指標は交通量を推定すべき年次における経済活動を表すものであり、人口、業種別就業人口、工業生産高、車種別自動車保有台数等が用いられ、発生交通量は各ゾーンに出発地をもつ交通量、集中交通量は各ゾーンに到着地をもつ交通量、分布交通量は二つのゾーン間を移動する交通量であり、配分交通量は分布交通量が設定された道路網のうち個々の道路に配分された将来交通量であって、これが各道路の計画交通量に相当するものである。

こうして推計された年平均交通量を、二四時間ごとに大型車と小型車のそれぞれの交通量に分割して得られるのが、車種別時間別交通量である。ここで用いる車種構成の状況(計画道路を通行する自動車の量が時間帯によってどう変化するか、大型車が多いか小型車が多いか)は、計画道路の周辺の類似道路の時間変動パターンを用いて設定することとなる。

本件でも前記の四段階推定法と呼ばれる手法により、予測対象時期(平成一二年度)における年平均一日交通量を四万三〇〇〇台/日と算出し、さらに、北勢バイパスの「近傍の類似した交通特性を持つ道路」として、同じ一般国道である一号及び二三号を選定し、この各データの平均値を基礎に、車種別時間別交通量を算出した。特に「三滝台・浮橋」地点については、一般国道一号朝日町縄生の調査結果と同二三号四日市市中納屋の調査結果を用いている。北勢バイパスは一般国道であって、東名阪自動車道のように自動車専用の高速自動車国道ではなく、交通分担、道路構造、無料・有料等といった特性が共通していること及び北勢バイパスが一般国道一号と同二三号の交通混雑の緩和等を目的に計画された道路であって両道路からの交通の転換が予想されることから、一般国道一号と同二三号を「近傍類似の交通特性」をもつ道路とみるのは相当である。同様の理由により、両道路の交通特性を平均して使用することは、不合理とはいえない。

B 排出係数

排出係数とは、一台の自動車が単位距離を走行する間に排出する当該物質の重量のことをいうところ、建設省では、シャシダイナモ試験により測定された一台づつの自動車の排出係数を一般国道で調査した車種構成比等を考慮して合成することにより、大型車と小型車に分けて、年式別、車種別、走行速度別に排出係数を算定しており、その排出係数が大気拡散の予測に用いられており、本件もこれによっている。

また、予測に用いた平均走行速度は、道路交通法施行令一一条による一般道における最高速度である六〇キロメートル/時と設定しているところ、一般国道の法定最高速度は六〇キロメートル/時であって、右法定最高速度をもって走行速度条件とすることには何の不合理もない。仮に、法定速度を上回る速度で走行する自動車があるとしても、法定速度を下回る速度で走行する自動車もあり、信号待ちで停車することもあることを考慮すれば、現実の問題としても、走行速度条件を右一定値にすることは何ら不合理ではない。

C 本件では、以上のデータを基礎として排出係数を設定し、排出量を算定しているところ、一般国道一号及び同二三号のデータの平均値を使って、一日交通量四万三〇〇〇台、走行速度六〇キロメートル/時、大型車混入率二八パーセントを前提とした予測をしたことは、環境影響評価としては相当である。

ホ 予測地点と排出源の位置関係(道路条件等)

環境影響評価においては、周辺の道路構造、地形、沿道における既存住宅の位置等を考慮して、代表的な予測地点(区域及び断面)を選定するところ、本件の予測地点には「三滝台・浮橋」地点も含まれている。この地点は、三滝台地区が第一種住居専用地域であり環境上保全すべき住居等があり、三滝台を通過する北勢バイパスの道路構造は切土構造であること、切土高さ、道路全幅員の状況及び既存住居の位置等を勘案し、代表的な断面として選定されているものであり、自動車排出ガスの沿道への拡散を予測するために適切な位置及び断面である。

道路近傍の拡散現象をより忠実に再現して予測するために、路面位置は、実際の計画路面ではなく、平面、盛土、切土、高架、遮音壁の有無といった道路構造に従い、個別に設定される(仮想路面)ところ、「三滝台・浮橋」地点は、道路構造が切土であって、切土断面の場合は、切土法面により排出ガスが上方に拡散され、排出源の高さが高くなったと同じ効果が現れるため、周辺地盤と同じ高さに路面位置が設定されている。

自動車の排気管は路面から0.2ないし0.5メートルくらいの高さにあるが、それから排出されたガスは自動車の走行によって起こされる空気の乱れによって上方へ拡散し、その後地上を吹く風によって、沿道へと拡散していくことになるため、プルームモデル及びパフモデルを適用する際の排出源の高さは路面位置より高く設定する必要があり、排出源の高さは、設定された路面位置から一メートルとした。

予測に当たっては、自動車が走行していることを想定して、予測断面の前後(水平方向)二〇メートルでは二メートル間隔で、その両側一八〇メートルは一〇メートル間隔で、前後四〇〇メートルにわたって連続して点煙源を配置しているが、これは、距離が離れるにつれて予測地点に到達する汚染物質の濃度が薄くなって影響が小さくなることから、長さを限って点煙源を配置しているものである(各点は車道部の中央とする。)。

ヘ 拡散幅

拡散幅は、建設省の各地方建設局が道路構造別に道路周辺の拡散性状を測定した結果を用いて建設省土木研究所が推定した算出式により、建設省技術指針に定められている一定の係数と計画道路の車道部端から予測地点までの距離及び車道部幅員から算出されるが、本件においてもこの方法により、本件予測地点の各車道部幅員から、拡散幅を算出している。

ト 予測結果に対する評価

A 評価方法

a 大気汚染に係る環境保全目標及び評価方法

建設省技術指針第6の2によれば、大気汚染の評価は、予測結果を環境保全目標に照らして行うものとされており、右環境保全目標は、環境基準に適合することとされている。

b 一酸化炭素の環境基準及び評価方法

一酸化炭素に係る環境基準は、「一時間値の一日平均値が一〇PPM以下であり、かつ、一時間値の八時間平均値が二〇PPM以下であること」である。

したがって、算出した一日平均濃度の予測値(年間九八パーセント値)が右基準を上回るかどうかを検討することになる。

c 二酸化窒素の環境基準及び評価方法

二酸化窒素に係る環境基準は、「一時間値の一日平均値が0.04PPMから0.06PPMのゾーン内又はそれ以下であること」である。

したがって、算出した一日平均濃度の予測値(年間九八パーセント値)が右基準を上回るかどうか(0.06PPMを超えるかどうか)を検討することになる。なお、環境基準値がゾーン(幅)で示されているのは、現況濃度との比較において、できる限り現況濃度以下であるように維持するよう努めるべきであることを示すものであり、環境基準に適合しているかどうかは一日平均濃度(年間九八パーセント値)が0.06PPMを超えているかどうかで判断される。

B 本件において、一酸化炭素の一日平均濃度(年間九八パーセント値)の予測値は、本件予測地点において、1.8PPMないし1.9PPMであり、環境基準である一〇PPMをかなり下回る。特に「三滝台・浮橋」地点では、1.9PPMと予測される。

他方、二酸化窒素の一日平均濃度(年間九八パーセント値)の予測値は、本件予測地点において、0.027PPMないし0.045PPMであり、環境基準である0.06PPM以下である。特に、「三滝台・浮橋」地点では、0.044PPMと予測される。

このように、環境影響評価によれば、本件予測地点において、一酸化炭素濃度及び二酸化窒素濃度とも環境基準に適合するので、環境保全目標を達成するとの評価を得ている。

④ 騒音の予測及び評価

イ 騒音の予測項目の選定

建設省技術指針第5の5によれば、騒音の予測項目は、騒音レベルの中央値(L50)(以下「中央値」という。)とすることとされており、本件においても、中央値を予測項目として選定している。なお、中央値とは、不規則に変動する騒音レベルの統計的な中央値のことで、観測時間中の五〇パーセント時間率騒音レベルである。

中央値は、当該時間の騒音レベルの上下動を反映し得る統計量であり、当該地域の環境騒音を全体として把握するのに相当な指標である。そして、建設省技術指針(及び環境基準)が中央値を予測項目として定め、これを評価の基礎としているから、ピーク騒音や等価騒音レベル等で予測しても、これに基づいた騒音の評価をすることができない(かえって、ピーク騒音を用いて予測及び評価をすることは、当該地域の一般的条件下における環境影響を把握するという環境影響評価制度の性格に反する。)。現在でも、自動車から伝播する騒音の測定、予測、評価の指標として中央値を用いることが一般的である。したがって、中央値を騒音の予測項目として選定するのは不適切とはいえない。

ロ 中央値の算出(予測式等)

一定の地点での自動車騒音の中央値は、後述するパワーレベル(音源の音の強さ)、音源から予測点までの距離、平均車頭間距離、回折減衰による補正値、種々の原因による補正値によって決せられるところ、中央値の算出には、このような考えに基づいた予測式である「一列等間隔等パワーモデルを基本とした予測式」(いわゆる「日本音響学会式」)(建設省技術指針第5の5の(2)記載の算式)を用いる。

本件においても、以下に述べるデータを用い、一列等間隔等パワーモデルを基本とした予測式によって中央値を求めている。

一列等間隔等パワーモデルを基本とした予測式は、自動車が、通常の道路では、一列で、必要な車間距離を保って(等間隔)並び、一定の速度で走行している(等パワー)という状況を反映したもので、昭和五〇年及び昭和五二年に日本音響学会によって公表されたものを基本とし、建設省等が道路の騒音予測に適するように係数等を設定し直したものであって、実験等によるデータによって裏付けられたものであり、信用性は高い。

ところで、この算式の適用範囲は、原則として、比較的平坦な地形に平面、盛土、切土、高架道路の各構造が連続しており、自動車が三〇ないし一〇〇キロメートル/時程度の速度で定常的に走行している道路について、路肩端から一六〇メートル(一般道路の場合)又は八〇メートル(自動車専用道路の場合)までの地点の騒音レベルの中央値を求める場合に限定される。この点、北勢バイパス建設予定の沿道地域はなだらかな丘陵地とその間の低地からなり、道路自体の構造は通常の四車線道路と同規模の平面、盛土、切土、高架道路である。そして、走行速度は六〇キロメートル/時と設定し、また予測位置である道路と民地の官民境界も、路肩端から一六〇メートル以内にある。それゆえ、一列等間隔等パワーモデルを基本とした予測式を用いたことは適切である。

ハ パワーレベル(音源の音の強さ)

パワーレベルは、自動車の走行速度と当該道路の車種混入率(車種構成比と同義である。)により算出される。算出式は、自動車の構造改善により加速走行騒音の規制が強化されていることを考慮に入れ、自動車の年式ごとに異なる。ここで用いる走行速度及び車種混入率(車種構成比)は、大気汚染の場合と同様、近傍類似の交通特性を持つ道路の現況を参考にして設定する。

本件においては、パワーレベルの算出式については、自動車構造の改善による騒音の低減を考慮して、第二段階の規制(昭和五一年六月に中央公害対策審議会より「自動車騒音の許容限度の長期的方策について」として、自動車加速走行騒音の許容限度設定目標が二つの段階に分けて答申された。第一段階目標は昭和五四年規制として告示され、第二段階目標は車種別に順次告示され、昭和六二年規制をもって全ての規制が確定した。この後者が「第二段階規制」である。)を用いた算式を適用しているが、これは、予測年次である平成一二年には全車両が昭和六二年規制に適合していることは確実と見込まれることに基づいている。

また、走行速度は法定速度である六〇キロメートル/時とし、車種混入率(車種構成比)は、大気汚染の場合と同様、近傍類似の交通特性を持つ道路として選定した一般国道一号及び同二三号のデータの平均値を用いている。

ニ 音源から予測地点までの距離

周辺の道路構造、地形、沿道における既存住宅の位置等を考慮して、代表的な予測地点(区域及び断面)を選定するところ、本件における騒音の予測地点は、大気汚染の予測地点(本件予測地点)と同一であり、この断面図が示されている。

また、予測位置については、一般的に道路から発生する騒音の場合には、水平方向には音源に近いほど騒音レベルが高くなること及び鉛直方向には現状調査を実施する測定点の高さを考慮して、原則として予測位置は道路と民地の官民境界における地上1.2メートルの高さに設定することとされ、本件においても、道路と民地の官民境界における地上1.2メートルの高さに設定されている。

他方、音源については、一車線又は対向二車線の場合には道路の中央に一つの音源を設定し、上下分離の片側二車線又は三車線の場合には上下各車道の中央にそれぞれ一つの音源を設定し、いずれも設定路面から0.3メートルの高さにあるものとするとされ、本件においても、北勢バイパスが上下方向に各二車線の道路であることから、上下各車線の中央に一つの音源を設定し、いずれも設定路面から0.3メートルの高さにあるものと設定している。

ホ 平均車頭間距離

車頭間距離は時間別交通量と走行速度によって算出されるが、これらは大気汚染の場合と同様、近傍類似の交通特性を持つ道路の現況を参考にして設定ないし算定する。本件においては、近傍類似の交通特性を持つ道路として選定した一般国道一号及び同二三号のデータの平均値を用いて時間別交通量を算出し、走行速度を六〇キロメートル/時と設定し、これにより平均車頭間距離を算定している。

ヘ 回折減衰による補正値(遮音壁や切土の法肩のような障害物に遮られて回折して伝播することにより減衰する程度を表す変数)

回折減衰による補正値は、音源と受音点(予測点)との間の障害物(遮音壁、切土の法肩等)の有無により行路差(音の伝播経路の差)を求め、実験と実測データに基づいて作成されている補正値表から読み取ることとされ、本件においても、マニュアルの定める補正値表を用いて求められている。

ト 種々の原因による補正値(音が伝播していく際に地表面、樹木、空気による吸収、気象等様々な要因の影響を受けて、伝播距離に比して過剰に減衰する程度を表す変数)

道路構造別に、数多くの実測結果と等間隔モデル式による計算値との差に基づいて作成された一覧表から読み取ることとされるところ、本件予測地点の道路構造別に、マニュアルの定める一覧表を用いて求めている。

チ 予測及び評価等

A 騒音の環境保全目標

環境影響評価における環境保全目標は、騒音レベルの中央値が、原則として、以下に示す値以下であることである(建設省技術指針第6の4の(2))

ⅰ A地域のうち、

二車線を有する道路に面する地域

昼間 五五デシベル(A)

朝・夕 五〇デシベル(A)

夜間 四五デシベル(A)

二車線を超える車線を有する道路に面する地域

昼間 六〇デシベル(A)

朝・夕 五五デシベル(A)

夜間 五〇デシベル(A)

ⅱ B地域のうち

二車線以下の車線を有する道路に面する地域

昼間 六五デシベル(A)

朝・夕 六〇デシベル(A)

夜間 五五デシベル(A)

二車線を超える車線を有する道路に面する地域

昼間 六五デシベル(A)

朝・夕 六五デシベル(A)

夜間 六〇デシベル(A)

なお、右にいう朝とは午前六時から午前八時まで、昼間とは午前八時から午後七時まで、夕とは午後七時から午後一〇時まで、夜間とは午後一〇時から翌日の午前六時までをいい、右の「地域」区分は都市計画法にいう都道府県知事の指定する用途地域に準拠したものであり、A地域とは、第一種住居専用地域、第二種住居専用地域、住居地域を、B地域とは、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域をいう。

実際には、朝・昼間・夕・夜間の四つの各時間区分の中で最も騒音の影響が大きくなる時間を特定して、その時間について予測することで、騒音の影響を把握できる。

B 騒音の評価方法

騒音の評価は、予測結果を環境保全目標に照らして行うが、環境保全対策等の措置を勘案して評価することができる(建設省技術指針第6の4の(1))。

C 本件における環境保全目標

北勢バイパスの計画路線周辺は、ほとんど環境基準に係る地域の指定が行われていないが、騒音の評価については、土地の利用状況に配慮し、本件予測地点全てを適用基準が最も厳格なA地域の類型として評価することとしており、また、北勢バイパスが四車線(上下各二車線)の道路であることから、以下の環境保全目標が北勢バイパスの計画路線周辺地域における具体的な環境保全目標となる。

すなわち、地域の類型がAで二車線を超える車線を有する道路に面する地域における騒音に係る環境保全目標は、以下の値である。

昼間 六〇デシベル(A)

朝・夕 五五デシベル(A)

夜間 五〇デシベル(A)

D 環境保全対策を講じない場合の予測結果

前記各手法を用いて算出された騒音の予測結果は、別紙7記載の表のとおりであるところ、これによれば、平成一二年時において、朝は、六か所の予測地点で五五ホン(A)を超え(最大六七ホン(A))、昼間は、四か所で六〇ホン(A)を超え(うち二か所は六一ホン(A)、最大六八ホン(A))、夕は、六か所で五五ホン(A)を超え(うち二か所は五六ホン(A)、最大六六ホン(A))、夜間は、六か所で五〇ホン(A)を超える(うち一か所は五一ホン(A)、うち一か所は五二ホン(A)、最大六三ホン(A))との予測結果を得た。特に、「三滝谷・浮橋」地点では、夜間に最大一〇ホン上回る。

E 評価

右予測結果を環境保全目標に照らすと、予測地点別では、四日市大矢知町及び鈴鹿市末広町以外の地点において環境保全目標を上回り、環境保全対策の検討が必要であるとの評価を得た。

F 環境保全対策を講じた場合の予測結果

環境保全対策として、1.0ないし2.0メートルの高さの遮音壁を設置する(「三滝台・浮橋」地点でも2.0メートルの高さの遮音壁を設置することが検討されている。)と、いずれの予測地点でも環境保全目標を達成できるとの結論が得られた。

(2) 環境影響評価の評価結果(影響の程度)

① 本件予測地点において、一酸化炭素濃度及び二酸化窒素濃度とも、環境保全目標を達成するとの評価を得ている。また、騒音についても、環境保全対策として、1.0ないし2.0メートルの高さの遮音壁を設置すれば、いずれの予測地点でも環境保全目標を達成できるとの評価を得ているところ、右結果は「本件予測地点」でのものであって、原告ら(住民)の居所はさらに計画ルートから離れていることからすると、以下のとおり、「距離減衰」効果によって、原告らの居住地においては、環境保全目標の値をはるかに下回る数値となる。

イ 自動車排出ガスの距離減衰

自動車排出ガスは、自動車走行による空気の乱れ、風力(風向・風速)、大気の乱れ等の影響を受けて道路から離れれば離れるほど拡散希釈が一層進み、濃度が減少していく(距離減衰)。

自動車排出ガスがある地域の環境濃度に及ぼす影響の程度は、発生源からの距離のほか、風向、風速、大気の安定状況等が大きくかかわって一様ではない。具合的事例に基づけば、自動車から排出された窒素酸化物濃度は、道路端から五〇メートル離れることにより道路端における濃度の約三分の一に減衰し、一〇〇ないし一五〇メートル離れることによりほぼバックグラウンド濃度となるという測定結果が発表されている。そうすれば、北勢バイパスから排出された二酸化窒素を含む窒素酸化物の濃度も、それ自体低濃度ではあるが、道路端から一〇〇ないし一五〇メートル離れた地点においては、距離減衰により北勢バイパスの影響が見られない濃度となると考えられる。

したがって、本件バイパスから一〇〇ないし一五〇メートル以上離れる地点に居住する原告らは、本件バイパスに起因する大気汚染の影響は受けないというべきである。

ロ 騒音の距離減衰

一般に、音はその発生源から遠ざかるにしたがってその大きさが減衰する。

被告が実施した「三滝台・浮橋」地点における騒音の距離減衰の程度の予測によれば、予測地点(官民境界)で六〇デシベル(A)(夜における予測値)であった騒音が右境界から八〇メートル離れることにより二〇デシベル(A)減少して四〇デシベル(A)程度に減衰すると予測される。同様に減衰するとすれば、北勢バイパスの環境影響評価書に記載された予測値によれば、本件予測地点から八〇メートル離れた地点においては、朝は四四デシベル(A)、昼は四五デシベル(A)、夕は四三デシベル(A)、夜は四〇デシベル(A)に減衰するものと予測される。

気象条件の影響を考慮した距離減衰の程度について検討した他の科学的知見によれば、音源から五〇メートル離れることにより音は二二ないし二五デシベル(A)減少することが示されている。これによれば、本件環境影響評価における騒音の予測値は、「三滝台・浮橋」地点(官民境界)において六〇ないし六五デシベル(A)であるから、同予測地点から五〇メートル離れた地点においては、三五ないし四三デシベル(A)に減衰すると予測される。

したがって、三滝台団地に本件バイパスの建設及び供用による影響が考えられるとしても、それは本件バイパスからせいぜい八〇メートルの範囲であり、遮音壁が設置されなくとも、本件バイパスから八〇メートル以上離れて居住する原告ら(四〇六名中約三六〇名強)にとっては本件バイパスの影響はないというべきである。

② さらに、本件の環境影響評価の予測対象時期が平成一二年又は平成二二年であることから、以下のとおり、各種の規制により、走行する自動車の排出ガス及び騒音自体の改善が見込まれるから、原告ら住民に大気汚染又は騒音の影響が生じることは一層認められない。

イ 排出ガス規制

自動車排出ガス規制については一酸化炭素から始まり、炭化水素、窒素酸化物と順次実施され、昭和四七年一〇月の自動車排出ガス許容限度長期的設定方策により、当時として世界一厳しい窒素酸化物の規制目標が定められ、技術開発の粋を集めて昭和五三年度規制として達成されている。その後、昭和五二年一二月の中央公害対策審議会答申により、窒素酸化物濃度の許容限度が第一、第二段階に分けて目標設定され、さらに、昭和五六年、昭和六一年、平成元年と新たな目標が示され、順次実施に移されている。このように、窒素酸化物に関する自動車排出ガス規制は、これまで鋭意進められ、今後も強化されていく方向となっており、本件の予測・評価時以降にも更に規制が強化され、これが実現していくものといえる。

また、地球温暖化防止を目的に、非石油系燃料の利用を条件とする低公害車(電気自動車、メタノール自動車(窒素酸化物の排出量はディーゼル車の約半分である。)、天然ガス自動車、ハイブリッド自動車)の普及が進められている。

したがって、本件バイパスの供用実施後の一酸化炭素及び二酸化窒素の濃度は、(少なくとも道路寄与部分は)本件評価書で提示された予測値よりも更に低い値になる。

ロ 騒音対策

騒音対策としては、自動車構造の改善による対策、道路網整備による対策、道路構造の改善による対策(遮音壁の設置、環境施設帯の設置等)、道路沿道の環境保全対策、交通規制、交通取締り強化、物流合理化等が進められている。

特に、自動車構造の改善については、道路運送車両の保安基準の改正により、昭和四五年以降、順次規制が強化され、加速走行騒音、定常走行騒音のほか、定常走行騒音、近接排気騒音の規制も進められることになっている。

したがって、本件バイパスの供用実施後の自動車走行に伴う騒音は、本件評価書で提示された予測値よりもさらに低い値になるというべきである。

(3) 権利侵害が発生する具体的危険性の有無

前記のとおり、適正な環境影響評価の手法によって得られた本件環境影響評価の結果によれば、本件バイパスが建設及び供用されることにより生ずる大気汚染及び騒音が原告らに及ぼす影響については、いずれも環境基準(騒音については建設省技術指針が定める環境基準と同一の基準)を超えることはなく、環境保全目標を達成できるとの評価を得ているから、原告らの生命・身体の安全を侵害する具体的危険性があるとはいえない。

すなわち、

① 公害対策基本法(環境基本法)が環境基準を「人の健康を保護し、及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準」(公害対策基本法九条一項、環境基本法一六条一項)と規定し、「政府は(中略)第一項の基準が確保されるように努めなければならない。」とするにとどまっている(各同条四項)ことからも明らかなように、環境基準は、将来に向けてのより積極的、先進的な行政上の目標設定を念頭に置いて定められたものであって、政府及び地方公共団体が環境の保全に関する施策を講ずる上で指標となるものであって、直接事業活動を規制するための基準として働くものではなく、これを超えたからといって直ちに人の生命・身体の安全に影響が現れるというものでもない。特に、大気汚染に係る環境基準のうち、二酸化窒素についてのものは、WHO(世界保健機構)の大気汚染物質に関する専門委員会が昭和三八年に示した大気汚染のガイドの四つのカテゴリーのうち、「ある値又はそれ以下の値ならば、現在の知見によると、直接的にも間接的にも影響(反射又は適応若しくは防御反応の変化を含めて)が観察されない濃度と暴露時間との組み合わせ」であるレベル1に相当するものであり(昭和四八年六月一二日環大企第一四三号各都道府県知事等あて環境庁大気保全局長通知「大気汚染に係る環境基準について」)、国民の健康に好ましからざる影響を与えることのないよう、十分安全を見込んで設定されたものである。現行の環境基準は、昭和五三年七月に改定されているが、それでも「国民の健康保護に問題の生ずるおそれはなく、またこれを超えたからといって直ちに疾病又はそれにつながる影響が現れるものではない」のである(昭和五三年七月一七日環大企第二六二号各都道府県知事等あて環境庁大気保全局長通知「二酸化窒素に係る環境基準の改定について」)。

他方、騒音に係る環境基準についても、「騒音に係る環境基準の指針設定にあたっては、環境基準の基本的性格にかんがみ、聴力喪失など人の健康に係る器質的、病理的変化の発生の有無を基礎とするものではなく、日常生活において睡眠障害、会話妨害、作業能率の低下、不快感などをきたさないことを基本とすべきであ」り、「騒音に係る環境基準はいわゆる狭義の人の健康の保持という見地からではなく、生活環境の保全という広い立場から設定されなければならないと考えられ」ており、環境基準を超えたからといって直ちに人の生命身体の安全に影響が現われるものではないことは、大気汚染に係る環境基準と同様である。

<省略>

(5) まとめ

以上のとおり、本件環境影響評価によれば、本件バイパスを計画ルートに建設し、これを供用することによって、原告ら住民に少なくとも環境基準を上回るほどの大気汚染又は騒音の影響が及ぶものとは認められないというべきであり、かかる影響によって原告らの生命・身体の安全を侵害する具体的危険性があるということもできない。

(五) 被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容、効果

被告が、本件バイパスの建設及び供用に伴い発生するおそれのある大気汚染及び騒音の防止対策として検討している措置として「遮音壁」がある。

(1) 騒音の環境保全目標達成のために遮音壁の設置が検討されているところ、遮音壁は高い騒音低減効果を有する。すなわち、高さ二メートルの遮音壁を設置すれば、回折減衰により、一一デシベル(A)の騒音低減効果が生じ、遮音壁をより高くすればさらに行路差が長くなるため、騒音レベルはより減少する(例えば、行路差一〇メートルとなることにより二三デシベル(A)程度減少する。)。これを「三滝台・浮橋」地点(官民境界)についてみると、道路側約一メートル内の場所に高さ二メートルの遮音壁を設置すると約一二デシベル、高さが五メートルのものであれば約二〇デシベルの遮音効果がある。それゆえ、二メートルの遮音壁を設置することでも、同地点における夜間の騒音は、四九デシベル(A)となると予測される。

また、遮音壁を設置することによって、排出源の位置が高くなり、拡散が一層進むため、沿道での二酸化窒素等の濃度が低減される効果もある。環境大気中には存在しないトレーサーガスを使っての実験では、遮音壁によりトレーサーガスが遮へいされ、上方に拡散していく状況を呈し、この傾向は遮音壁が高くなるとより明確に現れ、道路からの距離が離れるにつれて、遮音壁の影響は小さくなり、平面道路の濃度分布に近づいていくことが確認されている。

このように、遮音壁は、騒音対策としてはもちろん、大気汚染対策としても一定の効果がある。

<省略>

(3) まとめ

以上のとおり、遮音壁の設置により、大気汚染及び騒音の被害は十分回避できるというべきである。

(六) 侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度

北勢バイパスは、以下に述べるとおり、北勢地域における主要幹線道路として計画されたものであり、三重県北勢地域内陸部の発展を図るとともに、既に交通量の飽和状態にある一般国道一号及び同二三号の交通混雑の緩和を図ることを目的としたもので、高い公共性ないし公益上の必要性を持つ道路網として、北勢地域の交通体系において重要な役割を果たす道路であり、建設要望も高い道路であって、事業実施予定者である被告(建設省)が、地域の将来計画、道路網計画、地域通過方法、地域環境等を考慮して具体的ルートを策定し、環境影響評価、都市計画変更手続等を適正に履践して建設・供用するものであり、その建設・供用には極めて高い公共性、公益性がある。

(1) 四日市市の道路網及び交通量の現状

① 四日市市では、南北方向には、臨海部の市街地に一般国道一号及び同二三号が主要な幹線道路として通っており、内陸部には高速自動車国道である東名阪自動車道が通っている。東西方向には、一般国道三六五号と同四七七号等が主要な幹線道路として通っている。

これらの主要幹線道路が軸となり四日市市における道路交通処理の中心的な役割を果たしており、さらに県道、市道が加わり北勢地域、特に四日市市域内の道路網が形成されている。

② 各道路の平成六年度における車線数及び平日の交通量は、以下のとおりである。

[南北方向]

一般国道一号(四日市市大字日永<番地略>)

車線数二

一万九三五四台/一二時間(三万一一六〇台/二四時間)

一般国道二三号(四日市市中納屋町)

車線数四

三万九八四〇台/一二時間(六万〇六五〇台/二四時間)

東名阪自動車道(四日市東インターチェンジと四日市インターチェンジとの間)

車線数四

四万二三二二台/一二時間(五万七六一三台/二四時間)

[東西方向]

一般国道三六五号(四日市市生桑町)

車線数二

一万四九七七台/一二時間(一万九六五一台/二四時間)

一般国道四七七号(四日市市川島町)

車線数二

一万六九五二台/一二時間(二万三〇〇七台/二四時間)

③ さらに、平成六年度の自動車起終点調査(出発地と目的地等を自動車保有者等に対して調査する。)によれば、四日市市内陸部と名古屋市の間を行き来するトリップ(一台の自動車の一出発地から一到着地への移動をいう。)について、東名阪自動車道のインターを利用したものと利用していないものに分けて集計すると、四日市市内陸部と名古屋市の交通のうち三七パーセント程度が東名阪自動車道を利用しているに過ぎず、その余は、一般国道三六五号や同四七七号等を経由して一般国道一号又は同二三号を利用している交通量であることがわかる。

(2) 一般国道一号及び同二三号の交通渋滞の緩和

① 北勢地域における道路交通渋滞

イ 平成五年度に実施された「三重県新渋滞対策プログラム」の実態調査によれば、四日市市で渋滞ポイントとなっている地点は、一般国道一号では、富士電機前交差点、金場交差点、日永交差点、海軍道路交差点、追分交差点の五か所、一般国道二三号では、昌栄町交差点、海山道交差点の二か所、一般国道三六五号では、キングパチンコ店前交差点、生桑交差点の二か所、一般国道四七七号では、生桑橋南詰交差点と柳橋南詰交差点の二か所である。なお、これらの渋滞ポイントのうち、一般国道三六五号のキングパチンコ店前交差点及び生桑交差点並びに一般国道四七七号の柳橋南詰交差点の三か所を除いた他の交差点は全てDID地区内にある。

ロ 四日市市内の一般国道一号及び同二三号の交通状況を把握するために、被告が、平成二年九月五日(平日)の午前七時五〇分から午前八時までの間に行った航空写真の撮影結果によれば、一般国道一号では、富士電機前交差点付近から金場交差点までの下り車線、海蔵川左岸付近上り車線及び日永交差点付近から海軍道路交差点に向けての上り車線、一般国道二三号では、霞大橋付近下り車線、四日市競輪場付近下り車線及び上り車線、海蔵川右岸付近上り車線、三滝川付近下り車線及び上り車線、昌栄町交差点付近から鹿化川左岸付近までの上り車線、六呂見交差点付近上り車線及び下り車線に、それぞれ最短で約三〇〇メートル、最長で約一二〇〇メートルに及ぶいずれも数百メートルに及ぶ渋滞が発生している。

ハ このように、北勢地域の前記主要幹線道路では、(特に通勤ラッシュ時等に)慢性的な交通渋滞が発生しており、一般国道一号及び同二三号の渋滞の状況は、平成九年においても変わっていない。

② 渋滞の弊害とその解消の必要性

幹線道路に渋滞が発生することにより生ずる弊害として、一般に、社会経済活動への影響、道路交通環境及び社会生活環境への影響、交通安全への影響を挙げることができるが、四日市市におけるこれらの弊害は深刻で、四日市市内の幹線道路が十分機能していない現状及びバイパス等の未整備により、円滑な産業活動が阻害され、市中心部の空洞化現象が心配されており、これら弊害は、一般国道一号、同二三号、同三五六号及び同四七七号の沿道のみならず、北勢地域全般に及んでいる。したがって、北勢地域(特に四日市市)においては、交通渋滞を解消し、これによる弊害を除去する公益的要請が強い。

③ 一般国道一号及び同二三号の渋滞の発生原因

渋滞の原因としては、第一に、伊勢湾の西岸地域においては、名古屋市、四日市市、津市等の都市が南北方向に連続して位置しているため、この方向の交通需要が非常に大きいこと、特に、四日市市街地においては、臨海部の港湾や工場に発着する交通や市街地で発生する交通が加わって、大量の交通流を形成していることが挙げられる。第二に、四日市市内陸部の住宅開発等により、内陸部と工場や市街地がある臨海部との間の交通量が増大したことが挙げられる。すなわち、四日市市内の内陸部には南北の幹線道路として、有料の東名阪自動車道しかないため、名古屋市、桑名市、鈴鹿市、津市等に行く場合においても一般国道三六五号及び四七七号等を利用して、一旦臨海部方向に向かい、一般国道一号及び同二三号を介して目的地に行くことになり、一般国道一号及び同二三号の渋滞が発生する負荷の一因となっている。第三に、四日市市街地内では主要な幹線道路である一般国道一号及び同二三号に交差する道路が多く、短い区間に多くの交差点があり、右左折の車や沿道への出入りの車も多いことから、道路の交通処理能力が制約を受けていることが挙げられる。

④ 渋滞解消策としての北勢バイパスの必要性及び有効性

幹線道路における交通渋滞を解消・緩和させる対策としては、現道拡幅、交差点改良、バイパス建設の三つがあるが、一般国道一号及び同二三号の渋滞対策としては、車線数を増加させるための現道拡幅は、いずれの沿道にも建物等が建てられており、多大な移転や立ち退きが生じ、用地買収が非常に困難であるし、四日市市街地のほぼ全区間にわたって交通量が非常に多いことから、交差点の改良のみでは高い効果を得られないから、現道拡幅及び交差点改良は、抜本的な対策としては現実的ではない。これに対し、バイパスを建設すれば、現道とバイパスの両方に交通量を分散させることが可能である。特に、一般国道一号及び同二三号と同様に南北方向に走るバイパスを建設することにより、北勢地域における南北方向の交通量、交通需要に十分対応でき、さらに、南北方向に走るバイパスを内陸部に建設することにより、内陸部で発生して隣接市町村へ向かう交通が、臨海部や他の一般住宅地を経由せずに目的地に到達でき、走行距離及び時間を短縮できるとともに、一般国道一号及び同二三号に至るまでの一般国道三六五号及び同四七七号の渋滞対策としても効果を発揮する。したがって、一般国道一号及び同二三号の渋滞対策としては、南北方向に走るバイパスを四日市市の内陸部に建設するという方法を採らざるを得ないし、かつ、それが有効である。

(3) 都市計画(変更)決定後の北勢バイパスの建設要望状況

以下のとおり、本件バイパスについては、現実にも建設の要望が高い。

① 四日市市議会は、「『北勢バイパス早期事業実施』に関する決議」を全会一致で決議し、平成三年七月二三日に早期事業実施についての要望書を建設省中部地方建設局名阪国道工事事務所長(現北勢国道工事事務所長)へ提出した。

② 四日市市地区連合自治会ブロック連絡協議会は、北勢バイパス・伊勢湾岸道路の早期事業実施に関する決議を全員一致で決議し、平成三年二三日に要望書を名阪国道工事事務所長へ提出した。

③ 平成三年七月に北勢バイパス沿線の三市六町村の各首長を構成員として設立された北勢バイパス建設促進期成同盟会は、平成三年七月に「早期事業着手について、強く要望する」との陳情書を名阪国道工事事務所長へ提出した。

④ 平成六年三月一六日付け伊勢新聞には、三重県議会が北勢バイパスの建設促進の働きかけをするとの記事が掲載されている。

⑤ 平成七年一月に開催された、国・県・市の道路行政担当者と商工会議所との懇談会の席上、北勢バイパスの建設・完成時期についての質問が多くあり、一日も早い完成を熱望する声が多かった。

さらに、市町村長や議員との会合においても、北勢バイパスの早期完成を要望する意見が多く出された。

<省略>

(5) 結論

以上のとおり、北勢地域では、四日市市を通過する交通量の増加に加え四日市市内陸部での住宅団地等の開発による交通需要の増大と、これに伴う自動車交通の発生・増加により慢性的な交通渋滞が生じており、既存の幹線道路網では対処できなくなってきているのである。

右状況を打開すべく、北勢地域内陸部の発展を図ることも合わせ、その有効な方策として、四日市市内陸部を南北方向に通過する幹線道路の建設・整備が社会的に要請されているのである。

北勢バイパス(本件バイパス)はこのような事情を背景として計画されたものであり、北勢地域の社会経済活動にとって重要な役割を果たす道路として、その建設・供用には高度の公共性ないし公益上の必要性があるというべきである。

(七) 結語

以上により、本件バイパス建設の差止めが認められる余地のないことは明らかである。

第三  当裁判所の判断

一  差止請求の根拠及び要件

1  本件訴訟は、被告の行う北勢バイパスの建設及び供用に伴い、道路上を走行する自動車による大気汚染及び騒音が発生し、これらにより原告らの権利が侵害されるとして、本件バイパスの建設工事の差止めを求める事案である。

2(一)  かかる差止請求が認められるためには、本件バイパスの建設及び供用により、原告らに属する排他的な権利に対し、原告らが社会生活上一般に受忍すべきといえる程度を超えた違法な侵害が生じる具体的な危険性がある場合でなければならない。ところで、憲法一三条、二五条の規定からも明らかなように、人は、平穏裡に健康で快適な生活を享受する利益を有するところ、かかる人の生命や健康等の人格的利益(人格権)は、人が人として社会生活を送っていく上で必要不可欠なものであるから、排他的な権利として保障されているものと解される。

そして、かかる人格権に対する違法な侵害があれば、被侵害利益の性質、その侵害の態様、程度の如何によっては、差止めを許さなければ権利の救済を図れない場合もあり得るから、人格権は差止めを請求しうる根拠となりうるものと解される。もっとも、人格権として保護される利益には、生命、身体及び健康から日常の平穏かつ快適な生活に至るまで多様なものがあるが、本件において原告らが主張する都市計画法による第一種住居専用地域居住者としての生活権としての利益は、人格権利益というよりは財産的利益ないし都市計画法に基づく用途指定の反射的利益としての色彩を帯びている。しかしながら、原告らは、第一種住居専用地域居住者としての生活権にとどまらず、本件バイパスの建設及び供用によって発生する大気汚染及び騒音によって、単なる生活妨害にとどまらず、回復し難い健康被害が原告らに発生する旨を主張しているところ、大気汚染及び騒音の程度如何によっては、これによって生じる健康被害が人格権侵害となる余地があることに疑いはないから、原告らが主張するかかる利益に対して受忍限度を超えた違法な侵害が生じる具体的危険性があるならば、差止めを認めうる余地がある。

(二)  そして、国の行う公共事業が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかを判断するに当たっては、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質とその内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容、効果等の事情も考慮し、これらを総合的に考察して決すべきである[最高裁平成一〇年七月一六日判決(紀宝バイパス道路建設工事等差止請求事件)。最高裁昭和五六年一二月一六日大法廷判決(大阪空港訴訟・民集三五巻一〇号一三六九頁)、最高裁平成七年七月七日第二小法廷判決(国道四三号訴訟・民集四九巻七号二五九九頁)参照]。

そして、差止請求が、相手方の権利行使の自由を制限することになり、ことに公共の利益・便益を供給する道路事業の場合は、道路の社会経済的機能・効用を直ちに制約するに至るという金銭による損害賠償請求との請求内容の差異に照らし、差止請求を認容すべき違法性があるか否かの判断において、前記諸般の事情の重要性をどの程度のものとして考慮するかには、損害賠償の場合と比較して自ずと差異があることは明らかであり、例えば、公益上の必要性ないし公共性の有無の判断において、道路の供用が地域間交通や産業経済活動に対してその内容及び量においてかけがえのない多大な便益を提供しているなどの事情を考慮することにも合理性があるというべきである[前掲最高裁平成七年七月七日判決(国道四三号訴訟・民集四九巻七号二五九九頁)及び同事件の控訴審判決である大阪高裁平成四年二月二〇日判決参照]。

したがって、本件においても、以上の観点に立って、本件道路開設事業の公益上の必要性ないし公共性を考慮しつつ、原告らに対して受忍限度を超える違法な侵害が生じる具体的危険性の存否について検討する。

(三)  なお、原告らは、事前差止めが認められるには、原告らの権利が侵害される蓋然性があれば足りるものと解すべきであると主張するが、差止請求が相手方の権利行使の自由を直接制限するものであることに照らせば、侵害の生じるおそれの具体的危険性を要する点においては、事前差止めであっても既に建設及び供用されている道路の差止請求であっても異ならないと解すべきである[本件と同様の事前差止めに関する最高裁平成一〇年七月一六日判決(紀宝バイパス道路建設工事等差止請求事件)参照]。

二  北勢バイパス事業の公益上の必要性ないし公共性

1  証拠及び弁論の全趣旨によれば、北勢バイパス事業の公益上の必要性及び公共性に関連し、以下の事実が認められる。

(一) 四日市市の道路網及び交通量の現状

(1) 四日市市では、南北方向には、臨海部の市街地に一般国道一号及び同二三号が主要な幹線道路として通っており、内陸部には高速自動車国道である東名阪自動車道が通っている。東西方向には、一般国道三六五号と同四七七号等が主要な幹線道路として通っている。そして、四日市市では、これらの主要幹線道路が軸となって、道路交通処理の中心的な役割を果たし、さらに県道、市道が加わって、北勢地域、特に四日市市域内の道路網を形成している。

(2) 各道路の平成六年度における車線数及び平日の交通量(なお、道路交通量の調査で実施される平日調査は年間の平均的な交通量を把握するため行われるものであり、年間のうち交通量の変動の少ない秋季の平日に観測を行って、その観測地点の交通量とするもので、原則として全国で同じ日に調査することとしている。)は、以下のとおりである。

[南北方向]

一般国道一号(四日市市大字日永<番地略>)

車線数二

一万九三五四台/一二時間(三万一一六〇台/二四時間)

一般国道二三号(四日市市中納屋町)

車線数四

三万九八四〇台/一二時間(六万〇六五〇台/二四時間)

東名阪自動車道(四日市東インターチェンジと四日市インターチェンジとの間)

車線数四

四万二三二二台/一二時間(五万七六一三台/二四時間)

[東西方向]

一般国道三六五号(四日市市生桑町)

車線数二

一万四九七七台/一二時間(一万九六五一台/二四時間)

一般国道四七七号(四日市市川島町)

車線数二

一万六九五二台/一二時間(二万三〇〇七台/二四時間)

なお、平日における一二時間交通量(台/一二時間)というのは、午前七時から午後七時までの一二時間で測定された交通量観測値のことをいい、平日における二四時間交通量(台/二四時間)というのは、午前七時から翌日午前七時までの二四時間で測定された交通量観測値のことをいう。

(3) さらに、平成六年度の道路交通センサスで実施された自動車起終点調査(出発地と目的地等を自動車保有者等に対して調査する。)の結果によれば、四日市市内陸部と名古屋市の間を行き来するトリップについて、東名阪自動車道のインターを利用しているものと利用していないものに分けて集計すると、四日市市内陸部と名古屋市の交通のうち東名阪自動車道を利用しているものは三七パーセント程度であり、四日市市内陸部と名古屋市の間を行き来するトリップの六割以上は、東名阪自動車道を利用せず、一般国道三六五号や同四七七号等を経由して一般国道一号又は同二三号を利用している交通量であると考えられる。

(二) 一般国道一号及び同二三号の交通渋滞の緩和の必要性

(1) 北勢地域における道路交通渋滞

平成五年度に実施された「三重県新渋滞対策プログラム」の実態調査によれば、三重県全体についてみると、渋滞ポイント(一般道については、DID内では渋滞長一キロメートル以上又は交差点通過一〇分以上の渋滞点をいい、DID外では、渋滞長五〇〇メートル以上又は交差点通過五分以上の渋滞点をいう。また、「DID」とは、国勢調査による人口集中地区のことであり、市区町村の区域内で人口密度の高い(約四〇〇人/平方キロメートル以上)調査区が互いに隣接して、その人口が五〇〇〇人以上となる地域をいう。)は三八か所あり、うち平日について二五か所、休日について一三か所となっている。

これを四日市市内についてみると、一般国道一号で渋滞ポイントとなっているのは、富士電機前交差点、金場交差点、日永交差点、海軍道路交差点、追分交差点の五か所である。同じく一般国道二三号で渋滞ポイントとなっているのは、昌栄町交差点、海山道交差点の二か所である。次に内陸部の幹線道路である一般国道三六五号では、キングパチンコ店前交差点、生桑交差点の二か所が渋滞ポイントとなっている。また、一般国道四七七号では、生桑橋南詰交差点と柳橋南詰交差点の二か所が渋滞ポイントとなっている。

なお、四日市市内の各渋滞ポイントのうち一般国道三六五号のキングパチンコ店前交差点及び生桑交差点並びに一般国道四七七号の柳橋南交差点の三か所を除いた他の交差点は全てDID地区内にある。

四日市市内の一般国道一号及び同二三号の交通状況を把握するために、被告が、平成二年九月五日(平日)の午前七時五〇分から午前八時までの間に行った航空写真の撮影結果によれば、一般国道一号で渋滞が発生しているのは、富士電機前交差点付近から金場交差点までの下り車線に約六八〇メートル(交差点三か所)、海蔵川左岸付近上り車線に約三〇〇メートル(交差点二か所)及び日永交差点付近から海軍道路交差点に向けての上り車線に約五五〇メートル(交差点二か所)であり、一般国道二三号で渋滞が発生しているのは、霞大橋付近下り車線に約一二〇〇メートル(交差点二か所)、四日市競輪場付近下り車線に約一五〇〇メートル(交差点三か所)、同付近上り車線に約五三〇メートル(交差点二か所)、海蔵川右岸付近上り車線に約五五〇メートル(交差点一か所)、三滝川付近下り車線に約七八〇メートル(交差点三か所)、同付近上り車線に五〇〇メートル(交差点一か所)、昌栄町交差点付近から鹿化川左岸付近までの上り車線に約一一三〇メートル(交差点二か所)、六呂見交差点付近上り車線に約四五〇メートル(交差点一か所)、同付近下り車線に約三〇〇メートル(交差点一か所)及び同付近上り車線に約四五〇メートル(交差点二か所)である。

そして、一般国道一号及び同二三号の渋滞の状況は、平成九年においても変わっていない。

以上のとおり、北勢地域の前記主要幹線道路では、(特に毎日の通勤ラッシュ時等に)慢性的な交通渋滞が発生している。

(2) 渋滞の弊害とその解消の必要性

幹線道路に渋滞が発生することにより生ずる弊害として、一般に社会経済活動への影響、道路交通環境及び社会生活環境への影響、交通安全への影響が挙げられる。社会経済活動への影響としては、交通渋滞により、物資の輸送や業務交通の効率が損なわれ、産業活動の生産性が低下すること、バス等の公共交通機関の定時性が損なわれ、緊急時に救急車や消防車等が現場に到着するのが遅れたりすることなどが挙げられる。

また、交通渋滞により、車両は発進・停止を繰り返すため、ガソリン消費効率を低下させるとともに、これに伴い排出ガスの増加を招き大気汚染を進行させる誘引ともなり、交通渋滞は道路交通環境及び社会生活環境へ悪影響を及ぼす。また、幹線道路で交通渋滞が発生すると、これを避けようとする車両が、抜け道を求めて、住宅地等の細街路に入り込むなどの現象が生じ、住宅地内の歩行者等の安全を損なうなど交通安全に悪影響を及ぼす。そして、前記認定の交通渋滞により、北勢地域全般についても、かかる種々の弊害が生じているものと考えられ、これらの弊害により、特に、四日市市中心部の空洞化現象が懸念されている。

したがって、北勢地域(特に四日市市)においては、交通渋滞を解消し、これによる弊害を除去する必要性がある。

(三) 渋滞の発生原因

一般国道一号及び同二三号の渋滞の原因としては、第一に、伊勢湾の西岸地域においては、名古屋市、桑名市、四日市市、鈴鹿市、津市、松阪市等の都市が南北方向に連続して位置しているため、この方向の交通需要が大きいこと、特に、四日市市街地においては、臨海部の港湾や工場に発着する交通や市街地で発生する交通による交通需要が加わって、大量の交通流を形成していることが挙げられる。第二に、四日市市内陸部の住宅開発等により、内陸部と工場や市街地がある臨海部との間の交通量が増大したことが挙げられる。すなわち、四日市市内陸部の南北の幹線道路としては、有料でアクセスポイントが限定される東名阪自動車道しか存在しないため、近隣都市の桑名市、鈴鹿市、津市等に行く場合は、一般国道三六五号及び四七七号等を利用して、一旦臨海部方向に向かい一般国道一号及び同二三号を介して目的地へ行くのが一般的なルート選択であり、名古屋市方面へ行く場合でも、東名阪自動車道を利用しているものは、前記認定のとおり、四割弱に過ぎないから、内陸部に発生して桑名・名古屋方面あるいは鈴鹿・津方面へ向かう交通は、東西方向に走る一般国道三六五号及び同四七七号の交通渋滞をもたらすのみならず、一般国道一号及び同二三号の渋滞が発生する負荷の一因となっている。第三に、四日市市街地内では、主要な幹線道路である一般国道一号及び同二三号に交差する道路が多く、短い区間に多くの交差点があり、右左折の車両や沿道への出入りの車両も多いことから、道路の交通処理能力が制約を受けていることが挙げられる。

(四) 渋滞解消策としての北勢バイパスの必要性及び有効性

(1) 幹線道路における交通渋滞を解消・緩和させる対策としては、交通容量の拡大による方法として、以下のとおり、現道拡幅、交差点改良、バイパス建設の三つがある。

現道拡幅とは、渋滞している現道の幅を拡げて、新たに車線を加える対策である。現道拡幅のためには、沿道の土地を拡幅する全区間にわたって買収しなければならないが、幹線道路沿道は、高度な土地利用がなされている場合が多く、地価が高いために、用地買収費用や既存の住宅・店舗等の移転のための補償費用がかなり高額になる。また、事業者が移転のための代替地を斡旋する場合に、代替地の確保は困難を伴う。仮に、現道を拡幅できた場合でも、市街地の平面道路においては、沿道の駐車場から車が乗り入れたり、沿道の施設の利用者が荷物の積み下ろし等のため長時間にわたり車を駐停車するため、渋滞緩和や走行速度の向上という効果が十分発揮できない場合がある。

交差点改良とは、渋滞の起点となることが多い交差点について、種々の改良を行うことにより渋滞を軽減・解消させる対策である。これには都道府県公安委員会の行う信号現示の変更や交通規制の改善等という方法と、道路管理者の行う右左折車線の新設・増設や立体交差化という構造的な改良を加える方法とがあるが、信号現示の変更や交通規制の改善だけでは、渋滞解消・緩和には効果が乏しいことから、交差点の構造的な改良と併せて実施されることが多い。しかし、交差点の構造的な改良を実現することは、現状の交差点の拡張を伴うため、新たな用地を確保する必要が生じ、現道拡幅と同じ問題が発生するし、しかも、路線の交通量が多く、いくつもの交差点が連続して渋滞している場合には、単独の交差点の改良だけでは高い効果を得られない。

バイパス建設とは、現道が密集した既成市街地内を通過するため渋滞を生じている場合に、現道に並行して市街地を避けたルートを採るバイパスを建設することにより、交通量を現道とバイパスの両方に分散し、現道の渋滞を解消・緩和させる対策である。バイパス建設により、市街地内に起終点を持たない交通は、バイパスを利用することにより、混雑している市街地を走行せずに済むため、円滑な走行が可能になるとともに、市街地内の交通量も減らすことができる。加えて、市街地内に起終点を持つ交通も、バイパスを利用することで、混雑している市街地内を走行する距離をできる限り短くすることができる。

このように、バイパス建設は、交通渋滞を解消・緩和させる大きな効果が期待できる方法である。

これに対し、道路交通渋滞を緩和する施策としては、以上のような交通容量拡大による方法のほかに、道路交通需要管理の方法もあり、被告は、道路交通需要管理も長期構想の中で体系的な施策の一つとしている。その内容は、相乗りの促進、貨物輸送システムの高度化、物流の拠点整備、フレックスタイム、時差出勤、空港、鉄道駅、港湾等との結節点の強化による大量輸送機関への転換等であり、被告は、交通需要管理の諸施策について各都市で検討、試行実施している段階にある。交通容量の拡大と交通需要管理のいずれの施策を採用するか、両方策を併用するかは、その地域の道路網や交通実態により決定する必要がある。

(2) 一般国道一号及び同二三号の渋滞対策としては、前記認定の北勢地域における一般国道一号及び同二三号の交通渋滞の状況や内陸部発生の交通量の増大等に照らせば、交通需要管理の方法によることは不可能である。そこで、交通容量拡大のうちいずれによるのが適切かについて検討するに、車線数を増加させるための現道拡幅は、一般国道一号及び同二三号のいずれの沿道にも建物等が存在するため、これらの移転や立退きの必要性が生じ、用地買収が困難であるし、四日市市街地のほぼ全区間にわたって交通量が多いことから、交差点の改良のみでは高い効果を得られず、抜本的な渋滞緩和を実現することはできず、現道拡幅、交差点改良という対策はいずれも適切ではないし、実現も困難である。

これに対し、一般国道一号及び同二三号と同様に南北方向に走るバイパスを建設することにより、北勢地域における南北方向の交通量、交通需要を現道とバイパスに分散させることができ、南北方向の交通需要に適切に対応できるとともに、現道の渋滞を解消できる。そして、この南北方向に走るバイパスを四日市市の内陸部に建設すれば、内陸部で発生して隣接市町村へ向かう交通が、臨海部や他の一般住宅地を経由せずに目的地に到達できることとなり、走行距離及び時間を短縮できるとともに、一般国道一号及び同二三号のみならず、一般国道三六五号及び同四七七号の渋滞対策としても効果を発揮する。

したがって、一般国道一号及び同二三号の渋滞対策としては、四日市市の内陸部に南北方向に走るバイパスを建設することが必要、かつ、有効である。

(五) 四日市市内陸部の発展(開発)と新規幹線道路の必要性

四日市市は、昭和四〇年代以降、特に内陸部において複数の住宅団地の開発が進み、一貫して人口が増加してきた(四日市市の人口は、昭和四五年時において二二万九二三四人であったのに対し、平成七年時においては二八万八六五三人となった)。この傾向は、特に内陸部において顕著であり、四日市市の地区区分のうち、伊勢湾に接する臨海部における人口はほぼ減少ないし横這いの傾向にある。また、これに伴い、自動車の利便性を求めて、各世帯での自動車保有台数が増加した(平成七年度末において、ほぼ二〇万台強であり、昭和四五年度末と比較して約四倍強である。)。このように、四日市市内陸部においては、交通需要が顕著に増加しているにもかかわらず、内陸部には、東西方向を含めて幹線となる道路が少なく、特に、南北方向の主要な幹線道路としては東名阪自動車道があるが、同道路は、自動車専用道路でインターチェンジからしか出入りできないため、一般道路のような利便性を沿道住民に提供していない。このため、内陸部から各古屋市方面へ行く場合、東名阪自動車道を利用せず、一般国道三六五号や同四七七号等を経由して臨海部にある一般国道一号又は同二三号を利用する交通量も多く、さらに、四日市市の地域特性として臨海部に工場や市街地があるため、臨海部に向かう交通需要は大きい。それゆえ、これらのことを考慮すると、内陸部の大規模な住宅団地から名古屋市方面や臨海部市街地へ行く交通量の増加が、各幹線道路の相当大量の交通量となって現れていると見ることができる。

したがって、四日市市内陸部を通る新たな幹線道路を建設する必要性が増大しており、特に従前ある東名阪自動車道の特性及び名古屋市方面への交通需要等を考慮すれば、南北方向へ通る一般道を四日市市内陸部に建設する必要性がある。

(六) 都市計画(変更)決定後の北勢バイパスの建設要望状況

(1) 四日市市議会は、「『北勢バイパス早期事業実施』に関する決議」を全会一致で決議し、平成三年七月二三日に早期事業実施についての要望書を建設省中部地方建設局名阪国道工事事務所長(現北勢国道工事事務所長)へ提出した。

(2) 四日市市地区連合自治会ブロック連絡協議会は、北勢バイパス・伊勢湾岸道路の早期事業実施に関する決議を全員一致で決議し、平成三年七月二三日に要望書を名阪国道工事事務所長へ提出した。

(3) 平成三年七月に北勢バイパス沿線の三市六町村の各首長を構成員として設立された北勢バイパス建設促進期成同盟会は、平成三年七月に「早期事業着手について、強く要望する」との陳情書を名阪国道工事事務所長へ提出した。

(4) 平成六年三月一六日付け伊勢新聞には、三重県議会が北勢バイパスの建設促進の働きかけをするとの記事が掲載されている。

(5) 平成七年一月に開催された、国・県・市の道路行政担当者と商工会議所との懇談会の席上、北勢バイパスの建設・完成時期についての質問が多くあり、一日も早い完成を熱望する声が多かった。さらに、市町村長や議員との会合においても、北勢バイパスの早期完成を要望する意見が多く出された。

以上のとおり、北勢バイパスの建設及び供用については、現実にも四日市市をはじめ、沿道市町村からの実現要望が強い。

2 以上の各事実を総合すれば、北勢地域では、四日市市内陸部での住宅団地等の開発による交通需要の増大と、これに伴う自動車交通の発生・増加により慢性的な交通渋滞が生じており、既存の幹線道路網では対処できなくなってきているところ、一般国道一号及び同二三号の交通渋滞の緩和及び北勢地域内陸部の発展を図ることも合わせ、その有効な方策として、四日市市内陸部を南北方向に通過する幹線道路の建設・整備が社会的に要請されているものといえ、北勢バイパスの建設及び供用には極めて高い公益上の必要性ないし公共性が認められる。

3(一)  原告らは、北勢バイパスの建設により一般国道一号及び同二三号の交通量が減少するとはいえない旨主張するので、この点について検討する。

証拠によれば、北勢バイパスのルートは、一般国道一号及び同二三号と並行し、かつ、起点側の三重郡川越町で一般国道二三号と、同郡朝日町で一般国道一号とそれぞれ接続し、終点側の四日市市采女町で一般国道一号と、鈴鹿市稲生町で一般国道二三号(中勢バイパス)とそれぞれ接続する計画となっているから、現在一般国道一号及び同二三号を走行している自動車のうち、北勢バイパスの起点以北から発生する交通量で北勢バイパスの終点以南に目的地を有するもの及び北勢バイパスの終点以南から発生する交通量で北勢バイパスの起点以北に目的地を有するものは、信号交差点の比較的少ない北勢バイパスに転換すると考えられる。また、四日市市内に起終点を有する交通も、混雑している市内を走行する距離をできる限り短くするために、北勢バイパスを利用するものと考えられる。

したがって、北勢バイパスの建設により、一般国道一号及び同二三号の交通量の一部が、北勢バイパスに分散し、右各一般国道の交通量の削減に効果が発揮されると推測される。

これに対し、東名阪自動車道の起終点調査の結果から、東名阪自動車道を利用する交通量の約六〇パーセントが大阪方面に起終点をもつこと及び同じく大型車の交通量の約八〇パーセントが大阪方面に起終点をもつ交通であることが判明していることからも裏付けられているように、東名阪自動車道は一般国道二五号(自動車専用道路名阪道路)を介して名古屋市と大阪府を結ぶ幹線道路であることから、これを利用する交通は大阪方面との結びつきが強く、中京圏と関西圏を結ぶ長距離の交通が多い。したがって、東名阪自動車道を利用する長距離交通が、一般国道である北勢バイパスへ転換してくることは、距離的、時間的に不経済となるため、考え難い。

したがって、一般国道一号及び同二三号の交通量は北勢バイパスに転換し、また、東名阪自動車道から北勢バイパスへ転換する交通量はほとんどないと考えられる。

(二)  また、原告らは、四日市市内陸部から発生する交通量が名古屋等へ向かうときには東名阪自動車道を利用するので、本件バイパスの建設によって一般国道三六五号や同四七七号の渋滞が軽減されることはない旨主張する。

しかし、前記認定のとおり、四日市市内陸部と名古屋市の間を行き来するトリップの六割以上は、東名阪自動車道を利用せず、一般国道三六五号や同四七七号等を経て一般国道一号又は同二三号を走行するルートを利用しているものと考えられるから、本件バイパスの建設によって一般国道三六五号や同四七七号の渋滞も軽減されるものと推測できる。

(三)  原告らは、渋滞緩和の目的でバイパスを建設するという道路政策のあり方が疑問である旨主張するが、政策論としては傾聴に値するとしても、前記認定の一般国道一号及び同二三号の慢性的渋滞、北勢地域における人口及びこれに伴う交通需要の増加という現実を無視することは相当とはいえない

三  北勢バイパスの路線の選定

1  北勢バイパスの建設及び供用については、その目的において、高い公益上の必要性ないし公共性があるものと認められるが、その実現のため北勢バイパスの路線を選定するには、右目的に沿う合理的なものでなければならないのは当然である。

そこで、北勢バイパスの路線の選定が右事業目的に沿う合理的なものであるか否かについて検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、北勢バイパスの路線の選定に関し、以下の事実が認められる。

(一) 路線計画を策定するに当たっては、道路網計画の中での位置付け、路線の性格、交通需要の量及び質の予測等に配慮するとともに、計画地域の環境、地形・地質等について綿密な調査を行うことが必要とされ、路線選定においては、事業目的はもとより、都市計画等の地域の将来計画や道路網計画、都市及び集落の通過方法、神社・仏閣や、墓地、文化財・遺跡、学校・病院、住宅団地等の位置、他道路や鉄道との接続・交差の関係、河川の渡河地点、山地部の通過方法、地質等の自然条件等が考慮される。

(二) 事業実施予定者である被告(建設省)は、北勢バイパスについて、昭和四六年度から調査を開始し(当時は「四日市バイパス」と称された。)、昭和五三年度までに五つのルート候補を比較検討して、昭和六一年三月までに現計画ルートを選定した。このルートは、前記認定のとおり、三重郡川越町南福崎の一般国道二三号を起点として、朝日町小向で一般国道一号と交差し、四日市市広永町川原で同市に入り、大矢知、三重、神前、川島及び四郷地区を通り、内陸部の同市采女町清水で再び一般国道一号と接続し、終点の鈴鹿市稲生町で再び一般国道二三号と接続するというものであるところ、この北勢バイパスのルート選定に際しては、以下のような考慮がされた。

北勢バイパスの建設目的は、三重県北勢地域内陸部の発展を図るとともに、既に交通量の飽和状態にある一般国道一号及び同二三号の交通混雑の緩和を図ることにあるから、これらの建設目的に沿った機能を発揮するためには次のようなルートであることが必要である。先ず、バイパスとしての機能を果たすためには現道である一般国道一号及び同二三号におおむね並行し、かつ、あまり一般国道一号及び同二三号から離れないルートであることが必要である。また、四日市市内の渋滞解消のためには、臨海部周辺の四日市市の中心市街地を避けるルートである必要がある。また、北勢地域内陸部の発展という観点からは、内陸部に開発された住宅団地等の近くを通るルートである必要があるところ、既成市街地と東名阪自動車道との間には住宅団地等が分布しており、同住宅団地等は、一般国道三六五号及び同四七七号等に接して位置するので、これらの東西の道路を介して住宅団地から発生する交通の処理を行えるような位置にルートを採るのが合理的である。したがって、既成市街地と東名阪自動車道の間にルートを採るのが最も合理的である。

また、橋脚を設置するうえで有利であることから、ルートが河川に対して直角に横切ることも考慮されるべき点であるが、三滝川の両岸に沿っては住宅団地や既存集落が連続していることから、三滝川を通過できる点は限られている。

三滝台団地と陽光台団地の間を通過するルートは、その延長において三滝台を直角に横切ることができ、しかも両団地の境目にはもともと道路があるから、北勢バイパスの建設による現況の改変を最小限度にとどめられるとともに、その前後においても既存の建物等に与える影響が最も少ない。

これに対し、右ルートを基準としてやや東側には、坂部が丘団地、三重団地、美里ヶ丘団地、松ヶ丘団地、陽光台団地等があり、また、それらの団地よりさらに東には既成市街地が形成されているため、右ルートより東側にルートを選定することは困難であり、右ルートを基準としてやや西側には、高角町、曽井町、川島町の集落やかわしま園団地、三滝台団地、高花平団地等があり、それをさらに西側に避けると、現道である一般国道一号及び同二三号や既成市街地と大きく離れてしまい、バイパスの一機能である中心市街地への分散導入という機能が失われてしまうこととなり、適切でない。

以上のとおりであって、現計画ルートは、三重県北勢地域内陸部の発展を図るとともに、既に交通量の飽和状態にある一般国道一号及び同二三号の交通混雑の緩和を図るという北勢バイパスの建設目的、河川の通過地点、既存の住宅地に及ぼす影響、機能等に照らし、適切なものと認めることができる。

2  原告らは、用途地域に関する都市計画の決定基準(昭和四七年四月二八日付け都計発第四二号建設省都市局長から各都道府県知事あて通知「用途地域に関する都市計画の決定基準について」)に「第一種住居専用地域又は第二種住居専用地域は、原則として(中略)交通量の多い幹線道路(中略)に接して定めないこと」と規定されている(同基準(二)の①の(2))から、都市計画により第一種住居専用地域に指定されている三滝台に接して幹線道路を計画してはならないと主張する。

しかし、道路環境保全のための道路用地の取得及び管理に関する基準(昭和四九年四月一〇日付け都計発第四四号・道政発第三〇号建設省都市局長・道路局長通達「道路環境保全のための道路用地の取得及び管理に関する基準について」)が「第一種住居専用地域若しくは第二種住居専用地域又はその他の地域であって、住宅の立地状況その他土地利用の実情を勘案し、良好な住居環境を保全する必要があると認められる地域を通過する幹線道路については、(中略)当該幹線道路の各側の車道端から幅一〇メートルの土地を道路用地として取得するものとする。」と規定し(同基準3)(なお、三滝台付近では法面も含めて車道端から一〇メートル以上の土地を取得する計画となっている。)、第一種住居専用地域に幹線道路を設置する場合を予定していることからすれば、右基準は、既にある幹線道路に接する地域を第一種又は第二種住居専用地域と定めてはならないとしたものであって、第一種又は第二種住居専用地域に道路建設を計画してはならないというものではないことは明らかである。

また、原告武田直美は、本人尋問において、本件バイパスのルートが西坂部でカーブして三滝台に向かっているのは不自然であると述べるが、原告らの指摘する場所でカーブしているのは、そのまま直進して、かわしま園住宅団地と三滝台団地の間を通過することとなると、高角町や川島町の既存の集落内を横断することとなり、また、神前小学校等も避けることが難しくなって、現ルートより既存の地域環境等に与える影響が大きいものとなること、内陸部に開発された住宅団地と離れ、一般国道一号及び同二三号とも離れてしまい、北勢バイパスの建設目的にそぐわないことによるものと考えられるから、右カーブは何ら不自然ではないし、証拠(証人佐藤保)によれば、北勢バイパスの現計画ルートは、原告ら指摘のカーブも含め、北勢バイパスの設計速度等をふまえ、道路構造令に則って、設計された無理のないものであることが認められる。

原告らは、本件バイパスのルートを都市計画道路環状一号線の位置に設置すれば問題がない旨主張するが、環状一号線の現計画幅員は一二ないし二二メートルであり、ほとんどの区間は二車線道路となっているから、四車線の北勢バイパスを建設するには二〇メートルないし三〇メートルの用地幅が必要とされ、拡幅のための用地買収が必要となるところ、環状一号線の計画ルートには生桑町、尾平町の集落が密集している箇所や大谷台住宅団地、美里ヶ丘住宅団地、松ヶ丘住宅団地、陽光台住宅団地、笹川住宅団地が存在し、大幅な住居移転等が必要となるとともに、交通量の増加に伴う大規模な環境対策も必要となるので、環状一号線と同一ルートに計画することには、大きな問題がある。

したがって、北勢バイパスの路線策定に関する原告らの主張はいずれも当を得ないもいのである。

四  北勢バイパス建設に係る都市計画決定手続等

1  証拠及び弁論の全趣旨によれば、北勢バイパス建設に係る都市計画変更手続の経過等に関し、以下の事実が認められる。

(一) 建設省は、北勢バイパスについて、昭和四六年度から調査を開始し、昭和五八年度より環境影響評価のための調査に着手し、昭和六一年度までにルートの選定、道路の基本構造の検討、沿道の環境影響評価を了するとともに、三重県及び関係する市及び町と協議を続けて、前記第二の一2(一)及び(二)記載のとおりの計画を立案した。右立案によって選定されたルートは、既定の四日市都市計画区域内を通過するため、都市計画の変更手続が必要となった。

(二) 都市計画決定権者である県知事は、都市計画法一六条一項に基づき、北勢バイパスに関する都市計画変更の手続を行うに当たり、北勢バイパスの環境影響評価を行って環境影響評価準備書(以下「本件準備書」という。建設省都市計画関連細則2の(1)参照)を作成し、以下のとおり、昭和六二年から平成二年までの間、地域住民への説明会を開催して、計画について説明をした。説明会の内容は、建設省中部地方建設局名阪国道工事事務所、三重県、四日市市の各担当者(被告等担当者)が北勢バイパスの事業概要、都市計画案、本件準備書の内容及び都市計画の手続等を説明し、その後右説明に対する質問を受け、回答するという形式をとっていた。

(三) 説明会は、昭和六二年八月一八日から同月二五日までの間に、四日市市大矢知、三重、神前、川島、四郷及び内部の六地区において開催されたところ、川島地区に関しては、昭和六二年八月二三日、川島地区市民センターにおいて第一回目の説明会が開催され、その際、被告等担当者より、参加した住民に対し、騒音、大気汚染等の環境要素について、県知事が行った本件環境影響評価に沿う内容の予測、対策等が記載されている「都市計画案及び環境影響評価のあらまし」と題するパンフレットが配布された。その後も、川島地区に関しては、昭和六二年九月二一日に川島地区市民センター、昭和六二年一〇月二〇日に川島小学校において、説明会が開催され、昭和六二年九月二一日に開催された説明会においては、都市計画決定手続の概要を説明する「北勢バイパスの都市計画決定の手続の流れ」及び北勢バイパス計画案の策定経緯を説明する「北勢バイパス調査経緯」と題する書面が配布されたが、川島地区の住民の理解は得られなかった。そこで、被告等担当者は、川島地区の各自治会長らと協議した結果、各自治会ごとに意見を集約して自治会代表者と意見交換を行うこととし、同年一一月三〇日、各自治会が集約した質問に回答する形の説明会を開いたところ、三滝台自治会以外の自治会からはおおむね理解が得られた。

(四) その後、被告等担当者は、三滝台自治会の理解を得るべく、自治会代表者や住民との間で一四回にわたって説明会、話合いを実施したが、第一種住居専用地域である三滝台に接して本件バイパスのルートが決定されたことや県知事の行った本件環境影響評価の予測結果、評価結果に納得しない一部住民との間で意見交換は平行線をたどった。

(五) 県知事は、平成二年三月に至り、都市計画変更案についての説明は十分尽くされており、三滝台の住民が問題視する環境への影響については、県知事が作成した本件準備書に基づいて説明されており、重大な影響を及ぼすとは考えられず、さらに環境に対する保全対策を講ずることも十分可能であるから、これ以上、同地区のみの説明手続だけに終始して手続を進めないのは妥当でないと判断して、説明手続を終了した。

(六) 県知事は、都市計画法一七条に基づき、北勢バイパスに係る都市計画変更案を公告し、平成二年三月二三日から同年四月二三日までの一か月間、建設省都市計画関連細則2(4)により本件準備書を添付して公衆の縦覧に供した結果、地域住民から本件準備書の内容に対する合計一万〇四〇一件の意見書(都市計画法一七条二項)が提出された。そこで、県知事は、これらの意見書を集約し、三重県環境影響評価委員会の意見を聞いた上で、建設省都市計画関連細則3の(1)により、本件準備書を三〇か所程度修正するとともに(修正は主として誤記、誤字、誤植、表現の修正にとどまる。)、右意見書のうち公害の防止及び自然環境の保全の見地からの意見書の要旨及びこれに対する都市計画決定権者である県知事の見解を記載して本件評価書として作成した。県知事は、三重県都市計画地方審議会の平成二年一一月九日、「原案どおり可決した。」との答申を受けて、平成二年一二月二五日、都市計画法二一条二項に基づき、別紙1記載の四日市都市計画道路変更を決定し、同日告示し(三重県告示第七〇〇号及び同第七〇一号)、建設大臣はこれを認可した。

その後、四日市市は、平成三年一一月二〇日には、三滝台自治会が文書にてあらかじめ強く反対していたにもかかわらず、原告らを含む三滝台住民宅へ、個別訪問を実施した。

(七) 北勢バイパスの事業の進捗状況は、平成八年九月五日現在で、四日市市大矢知町では用地買収、四日市市川越町、四日市市旭町では用地測量を実施している段階である。

2(一)  原告らは、県知事は北勢バイパスの都市計画案について住民の意見を反映させるための手続をしなかったから、都市計画法一六条に違反すると主張する。

しかしながら、県知事が、都市計画法一六条一項に基づいて、関係住民の十分な理解を得るために北勢バイパスの都市計画についての説明会を実施し、特に、三滝台団地を含む川島地区では、複数回にわたって、説明会を実施し、かつ、その説明会を実施するための打合わせを行っていることは前記認定のとおりであるし、さらに、原告武田直美他一五名作成に係る意見書の記載内容、「北勢バイパスへの取り組みについて」と題する書面の記載内容、原告らの被告等担当者に対する質問事項書及び原告武田直美本人の供述内容等に照らせば、前記説明会の経過の中で、被告等担当者が原告ら住民に対し、北勢バイパスの計画概要及び本件環境影響評価の概要等について、原告らがその内容及び問題点を理解し得る程度に情報の提供を行ったことは明らかである。かかる観点からすると、行政の対応が不十分であった旨の原告の主張は、被告等担当者の回答が、原告ら住民の期待に沿う内容の回答ではなかったという評価を述べているに過ぎないものと理解されるのであって、被告等担当者が三滝台住民に対する関係では長期間かつ複数回にわたって説明会を繰り返してきた事実に照らせば、県知事の行った手続が都市計画法一六条に反するものとは到底いえない。また、本件環境影響評価に関する被告の主張及びこれを裏付けるための膨大な書証等に照らせば、県知事が実施した本件環境影響評価はかなり科学的な知識を要する技術的な色彩が濃いものであるから、その依拠する方法が如何なる科学的知見に基づくものか、評価の前提となる原資料がどの程度のものかなど本件環境影響評価の詳細についてことごとく説明することには、事柄の性質上、一定の限界があるのはやむを得ないところであって、それがため県知事の説明が不十分であったということはできない。

したがって、都市計画法一六条に違反すると認めるに足りる証拠はないというべきである。

(二)  原告らは、縦覧された本件準備書に不備が多く縦覧に供したとは認められないから都市計画法一七条に反すると主張する。しかしながら、本件準備書の縦覧は、閣議決定要綱又は県指導要綱に基づく手続であるし、原告武田直美らが県知事に提出した意見書で指摘されている記載の不備と、環境影響評価参考資料第6章その他第2節「環境影響評価準備書の修正の内容等」とを対照すれば、住民らが指摘した不備は形式的な事柄で実質的な内容を指摘するものではなかったことは明らかである。したがって、このような記載の不備を理由に都市計画法一七条に違反するということはできない。

(三)  原告らは、都市計画法による約一万件以上の意見の要旨の集約は適正になされておらず、都市計画法一八条に違反する旨主張するが、原告武田直美らが県知事に提出した意見書と本件環境影響評価書の第九章「意見書の要旨及び都市計画決定権者の見解」を対照すれば、少なくとも原告らの意見書の要旨の集約が適切になされていることは明らかである。したがって、都市計画法一八条に違反するところはない。

(四)  原告らは、都市計画決定後に、四日市市当局が住民の理解を得るために職員をして戸別訪問させたことは不法行為であると主張するが、北勢バイパス建設・供用の差止めのための権利侵害の有無、すなわち受忍限度の問題とは関係がない。

五  北勢バイパスによる侵害行為及び権利侵害発生の具体的危険性

1  原告らは、本件バイパスの建設及び供用により生じる大気汚染及び騒音により、原告らに回復し難い健康被害が生ずる旨主張するところ、前記のとおり、北勢バイパスについては県知事が本件環境影響評価を実施し、原告らにおいても自主アセスを実施しているので、これらの結果等に照らし、大気汚染及び騒音の程度について検討する。

2  本件環境影響評価の実施手順等の概要及びその合理性

(一) 実施手順等の概要

証拠によれば、以下の事実が認められる。

建設省技術指針によれば、環境影響評価に係る調査、予測及び評価の作業は、次の手順によって実施することとされている。

まず、道路事業計画の内容を検討し、事業の実施に伴い環境に影響を及ぼす要因(環境影響要因)で、施設の設置及びその供用並びに工事実施に係るものを把握する。また、道路事業が実施される地域環境に係る基礎的項目(地域の自然的状況に係る項目、社会的状況に係る項目、環境関係法律等に係る項目が含まれる。)に関する資料や文献を収集して、当該地域の基本的な特性を把握する。

次に、把握した環境影響要因及び地域環境の特性に応じて、建設省技術指針に規定する現状調査を行う環境要素の設定基準により、現状調査を行う環境要素を設定し、その環境要素について、所定の方法に従い現状調査を行う。

さらに、現状調査の結果に基づき、現状調査を行った環境要素のうち、建設省技術指針に規定する予測及び評価を行う環境要素の設定基準により、予測及び評価を行う環境要素を設定する。

そして、設定した環境要素について、環境影響の予測を行い、その結果について、あらかじめ設定した環境保全目標に照らし、環境影響の評価を行う。評価の結果必要がある場合には、環境保全対策の検討を行い、当該検討の結果に応じて再度予測又は評価を行う。

これらの調査実施経過及び評価結果の内容を、準備書としてとりまとめ、これを周知し、これに対する意見書をとりまとめるなどして、環境影響評価書を作成する。

県知事が実施した本件環境影響評価も、以上の建設省技術指針及びマニュアルに従って実施されたものである。

すなわち、既存文献及び既存資料に基づき地域環境を把握し、その概要を地域の自然的状況、地域の社会的状況及び環境関係法律等による規制等の状況という三項目に分け、その結果から、公害の防止に係るものとして、計画路線が都市計画法によって指定された用途地域を通過することから大気汚染、騒音及び振動を、自然環境の保全に係るものとして、計画路線が学術上等の観点から重要と認められる地域を通過することから地形・地質、動物をそれぞれ現状調査を行う環境要素として設定し、建設省技術指針及びマニュアル所定の方法により現状調査を行い、その結果に基づき、計画路線周辺に住居等があることから大気汚染、騒音を、学術価値の高いものの分布する地域を通ることから地形・地質、動物をそれぞれ予測及び評価を行う環境要素として選定し、これらについて、建設省技術指針及びマニュアルに示した手法に従って、予測値を算出し、その結果について、科学的知見に基づき評価を加えている。

(二) 手法の合理性

(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

県知事が依拠した閣議決定要綱は、昭和四〇年代中ころから公害問題が社会問題としてクローズアップされてきた中で、政府、地方公共団体、産業界においても広く環境影響評価の必要性が認識され、その研究が進められていたところ、昭和五四年四月に「環境影響評価制度のあり方について」との中央公害対策審議会の答申が内閣に提出されたのを受けて閣議決定された(本件閣議決定)ものであり、右閣議決定要綱を受けて定められた建設省実施要綱、建設省技術指針は、調査・予測技術に関して、その当時最新といってよい建設省土木研究所等の試験結果、各種研究機関による裏付け調査等の科学的知見に基づき作成されたものである。特に、建設省技術指針は、環境影響評価が科学的かつ適正に行われるために必要な技術的事項を定めることをその趣旨とするものであり、これには、昭和五三年度から昭和五七年度まで、道路交通に伴う公害問題の対策としての道路構造物、建築物、土地利用等を一体的に考慮した道路と居住環境の総合的な整備に関する技術の研究開発を目的として、建設省土木研究所を中心に行われた「沿道地域の居住環境整備に関する総合技術の開発」という調査研究プロジェクトにおいて検証された予測方法等についての科学的知見が採り入れられている。この調査研究プロジェクトでは、大学教授、専門家など学官民の学識経験者からなる沿道地域居住環境整備技術開発委員会のもと、大気汚染研究部会、道路騒音研究部会等複数の部会を設けて、専門家による指導、助言のもとに予測方法等についての調査研究が行われたのである。

(2)  したがって、県知事が依拠した閣議決定要綱及びこれに連なる建設省実施要綱、建設省実施細則、建設省技術指針の定める環境影響評価手法は、一般論として、科学的な知見に基づく合理的な方法であるものと認めることができる。

(3) 原告らは、本件環境影響評価について、客観性に欠け、三滝台の地域特性を考慮していない旨主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、本件環境影響評価が依拠している建設省技術指針及びマニュアルは科学的知見に基づく合理性を有するものであり、後記認定のとおり、そこで用いたデータも実測に基づくものであるし、気象データ等についても三滝台近傍のものを使用しており、地域的特性も考慮に入れた予測である。

3  予測対象時期

(一) 証拠によれば、本件環境影響評価の予測対象時期について、以下の事実が認められる。

建設省技術指針によれば、予測対象時期は、原則として、環境影響要因が当該施設の設置に係るものについては、施設の設置が完了する時期、施設の供用に係るものについては、事業計画の目標時期、工事の実施に係るものについては、工事中の期間とされる(同指針第5の2)。

道路事業では、環境影響要因が、大気汚染、騒音、振動といった道路そのものの設置に係るものというより、道路の供用(に伴う自動車走行)に係るものである場合がほとんどであるから、予測対象時期は当該事業計画の目標時期とするのが通常である。そして、道路の路線計画の場合、計画策定に着手しても、その後の計画決定、用地買収、建設工事に掛かる時間を考えると、一部ないし全部供用に至るまでは相当の年数が経過するのが現実であること、道路整備長期計画でも計画目標年次がほぼ二〇年後とされていること、二〇年という期間は一般的には現実的な構想に対する予測の限界であるとされており、これ以上の期間を考えることは計画としての意義が少ないことなどから、事業計画の目標時期(目標年次)を計画策定時の二〇年後と設定するのが通常であり、道路事業計画における環境影響評価の予測対象時期も当該事業計画策定時の二〇年後とするのが通常である。

北勢バイパスの計画の目標時期は、具体的な計画策定の進捗状況、現状調査に係る当時の最新の交通量のデータが昭和五五年に実施された道路交通センサスによる調査結果であったことなどを考慮して、昭和七五年(平成一二年)と設定され、本件環境影響評価の予測対象時期も昭和七五年(平成一二年)と設定された。その後、平成二年に、北勢バイパスと一部重複する第二名神高速道路のうち「伊勢湾岸道路」の部分の計画路線について、予測対象時期を平成二二年とする環境影響評価をした。このため、北勢バイパスについても、これに合わせて、予測対象時期を平成二二年とした環境影響評価参考資料が作成された。

(二) 以上のとおり、本件環境影響評価の予測対象時期は、平成一二年及び平成二二年である。

4  本件環境影響評価の大気汚染の予測及び評価

(一) 大気汚染物質(大気汚染の予測項目)の選定

(1) 証拠によれば、本件バイパスの供用により発生する大気汚染に関し検討すべき大気汚染物質(本件環境影響評価において検討された大気汚染物質)に関して、以下の事実が認められる。

① 自動車排出ガスに含まれる大気汚染物質としては、一酸化炭素、窒素酸化物、二酸化硫黄、浮遊粒子状物質、光化学オキシダント、炭化水素、鉛化合物が挙げられるが、一般に自動車排出ガスによる大気汚染に関して予測項目とすべき物質としては、環境保護のため実効的な排出規制を実現するという観点から、次の全ての要件を満たすものを選定するのが相当であると考えられる。

Ⅰ 自動車からの排出量が一般大気中に排出される総量に占める割合が大きいこと。

Ⅱ 自動車排出ガスに含まれる排出量が把握できること。

Ⅲ 定量的な予測手法が確立されていること。

Ⅳ 環境基準のような評価のための環境保全目標が設定できること。

② ところで、建設省技術指針第5の3の(1)では、大気汚染の予測項目は一酸化炭素及び窒素酸化物とされている。ここにいう窒素酸化物とは、一酸化窒素と二酸化窒素を指すが、自動車から排出される窒素酸化物も、排出直後こそ大部分が一酸化窒素であるが、大気中で徐々に酸化されて二酸化窒素となるうえ、建設省技術指針によれば、大気汚染における環境保全目標は環境基準に適合することであり(第6の2の(2))、環境基準は「窒素酸化物」についてではなく「二酸化窒素」について設定されているため、環境影響評価における予測項目としても、一酸化炭素と二酸化窒素を選定するのが通常であって、本件環境影響評価でも一酸化炭素と二酸化窒素を選定している。二酸化窒素は、自動車からの排出量が多く、その排出量も把握でき、予測手法が確立されていて、環境基準も定められていることから、前記の四要件を全て満たし、一酸化炭素は、現在では自動車からの排出量が著しく減少しており、大気環境に及ぼす影響はほとんどないが、自動車からの排出量が明らかで、予測手法が確立され、環境基準も定められていることから、環境影響評価における大気汚染の予測項目としても不適切ではない。

③ 硫黄酸化物については、環境基準が設定されているものの、ガソリンは精製過程で硫黄分は取り除かれ、軽油についても含有量は低減しており、自動車からの排出量が一般大気中に排出される総量に占める割合は少ない。また、近年では自動車排出ガス測定局の全てにおいて環境基準が達成されている。したがって、前記Ⅰの要件を満たさず、硫黄酸化物による大気汚染が引き起こされる可能性も僅少といえ、予測項目とする必要性は認められない。

④ 浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter SPM 大気中に浮遊する粒子状の物質のうち粒径一〇マイクロメートル以下のものをいう。)は、環境基準が設定され、その環境基準は、一時間値の一日平均値が0.10ミリグラム/立方メートル以下であり、かつ、一時間値が0.20ミリグラム/立方メートル以下であることとされ、Ⅳの要件は満たす。しかしながら、自動車あるいは自動車交通に起因する浮遊粒子状物質には、排気管から直接排出されるもの以外にタイヤやブレーキ等の磨耗によるもの、路面堆積物の巻き上げによるものなどもあり、その排出量を把握することは困難であり、寄与率も解明されていないから、前記要件Ⅱ及びⅢを満たさず、予測項目とするには不適切である。

東名阪自動車道に面している自動車排出ガス測定局である東名阪測定局における平成四年度における浮遊粒子状物質の測定結果によれば、同年度における東名阪自動車道(四日市東インターチェンジから四日市インターチェンジ間)の一日平均交通量が五万三六三三台であったのに対し、一日平均濃度(年間九八パーセント値)は、0.0995ミリグラム/立方メートルであり、一時間値の一日平均値が二日間連続して0.10ミリグラム/立方メートルを超えたため、環境基準を達成しなかったが、環境基準に定められている一日平均値を超えるのは四日/年の割合(1.1パーセント)で生じているに過ぎず、その間の浮遊粒子状物質の一時間値の最高値は0.295ミリグラム/立方メートルであったが、環境基準に定められている一時間値を超えるのは一八時間/年の割合に過ぎなかった。そして、平成元年度ないし平成八年度までの東名阪測定局における浮遊粒子状物質の測定値と平成元年度ないし平成九年度までの東名阪自動車道(四日市東インターチェンジから四日市インターチェンジ間)の一日平均交通量(平成七年度を除き一貫して年々増加傾向にある。)とを対比すると、交通量と浮遊粒子状物質の測定値との間に顕著な相関関係があるものとは認め難い。また、四日市市内の自動車排出ガス測定局及び一般環境大気測定局における平成元年度ないし平成八年度浮遊粒子状物質の測定結果によれば、四日市市内の一般環境大気測定局においても環境基準を超えることがしばしばある(例えば、磯津地点では、平成二年度から同八年度の間、同五年度以外は環境基準を超えている。)。これらの事実は、浮遊粒子状物質の発生が自動車交通によるものばかりではないこと、交通量との関係で浮遊粒子状物質の発生を予測することが困難であることを裏付けるとともに、少なくとも交通量との関係では、前記の東名阪自動車道程度の交通量があってもこれによる浮遊粒子状物質による汚染の程度は前記の程度にとどまることを示すものといえる。以上によれば、浮遊粒子状物質による大気汚染が発生する具体的危険性は認め難いというべきであって、浮遊粒子状物質を大気汚染の予測項目として設定する必要性も認められない。

⑤ 光化学オキシダント[オゾン、パーオキシアセチルナイトレートその他の光化学反応により生成される酸化性物質(中性ヨウ化カリウム溶液からヨウ素を遊離するものに限り、二酸化窒素を除く。)をいう。]については、一時間値が0.06PPM以下であることと環境基準が設定されており、前記Ⅳの要件を満たしている。しかしながら、光化学オキシダントは、窒素酸化物及び炭化水素から複雑な光化学反応により生成される二次生成物質であるが、現在のところその複雑な生成過程は解明されておらず、その発生について定量的な予測手法が確立していないから、前記のⅢの要件を満たさず、予測項目とするには不適切である。

原告らが、平成四年五月一〇日から同年八月二日ころにかけて三滝台において実施したアサガオ品種スカーレットオハラを用いた光化学オキシダント被害調査の結果によれば、三滝台において光化学オキシダントによるアサガオの葉に被害が生じていることが窺えるが、アサガオ被害と人体への影響について定量的な知見が得られていないから、これをもって直ちに光化学オキシダントによる大気汚染が発生する具体的危険性があるものと判断することは困難といわざるを得ず、光化学オキシダントを大気汚染の予測項目として設定する必要性も認め難い。

⑥ 炭化水素については、環境基準も設定されておらず、かつ、現在では自動車からの排出は低減されており、大気中に排出される総量は少ないから、前記Ⅰ及びⅣの要件を満たさず、予測項目とするには不適切であるとともに、炭化水素による大気汚染が引き起こされる可能性も僅少であるから、その必要性も認め難い。

⑦ 鉛化合物については、環境基準も設定されておらず、かつ、昭和五二年にレギュラーガソリンが、昭和六二年からはプレミアムガソリンが無鉛化されたため、現在では自動車から大気中に排出されることはないから、前記Ⅰ及びⅣの要件を満たさず、予測項目とするには不適切であるとともに、これによる大気汚染が引き起こされる可能性も僅少であるから、その必要性も認め難い。

(2)  以上によれば、本件バイパスの供用により発生するおそれのある大気汚染の汚染物質として考えられるのは、二酸化窒素及び一酸化炭素にとどまるものと認められ、本件環境影響評価において大気汚染の予測項目として両者を選定したのは適切であったものと認められる。これに対し、原告らは、他に浮遊粒子状物質、二酸化硫黄、光化学オキシダントによる大気汚染が発生するおそれがある旨主張するが、前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 大気汚染の予測方法

(1) 予測式等

① 証拠によれば、本件環境影響評価における大気汚染の予測方法は以下のとおりと認められ(その概略については別紙8参照)、これに対する評価は各該当箇所に示すとおり判断する。

イ (道路寄与分のみの)年平均濃度の算出の方法

自動車排出ガスによる大気汚染の予測とは、排出ガスに含まれる汚染物質が排出源である自動車から沿道地域にどのように拡散していくかを予測することを意味する。大気汚染の予測の方法は、風の流れ及び拡散を考慮した汚染物質の質量保存に関する一定の微分方程式(以下「拡散方程式」という。)を解くことにより濃度を求める拡散計算による方法、模型実験による方法及び統計的方法の三つに大別される。このうち、計算の容易さ、適合性からみて、地形等の条件が比較的単純で、実測調査に基づきパラメータ等が求められる場合には、拡散計算による方法のうち、風速の鉛直分布をモデル化したり、拡散係数が一定であると仮定するなど条件の単純化を行うことにより拡散方程式を解き、その解を利用して濃度を求める解析解による正規型(風速の鉛直分布等の条件を一様とする場合)プルームモデル[プルームモデルとは、有風時に点煙源から排出される煙が風によって流されていくときの煙流(プルーム)内での煙の濃度を表すモデルをいう。]とパフモデル[パフモデルとは、一点で瞬間的に放出された煙が空間内に広がっていくときの煙塊(パフ)内での煙の濃度を表すモデルをいう。]を基本とする予測方法が適している。このような拡散計算による予測手法においても、全てが理論に基づく計算から求まるものではなく、いくつかの仮定が必要であるとともに、拡散幅(拡散係数)等については既存の実測や実験データから統計的な手法を用いて設定することになっている。具体的には、これらの拡散式は、原則として、地表面が平坦で、点煙源から予測地点に向かって風が一様に吹くとみなせるような比較的単純な拡散場での予測をする場合を想定している。

建設省技術指針で定められている拡散式は、別紙9記載のとおりであるが、以上で述べた拡散計算による予測手法のうち、解析解による方法であり、有風時において正規型プルーム式を、弱風時には無風時のパフ式を拡散幅が拡散時間の一次関数であると仮定して時間積分を行った簡易パフ式を基本としている。すなわち、建設省技術指針が依拠する大気汚染の予測手法は、予測地点での濃度は、風向・風速、排出源(予測対象となる道路を走行する自動車)からの排出量、予測地点と排出源の位置関係(排出源を原点とし、風下方向にX軸を設定した場合の予測地点の三次元座標)、拡散幅[道路を走行する自動車の排気管から排出されたガスが風下側に拡散し、濃度が小さくなっていく過程で、このガスの流れ(濃度分布)を適当な時間について平均していくと、円錐形を描き、風の流れに垂直の断面では正規分布と呼ばれる曲線に近似することが知られている。この正規分布の広がりを示す指標である標準偏差を、大気拡散の分野では拡散幅という。]によって決せられるという考え方に基づいた予測式である拡散式によって、各物質の予測地点における(道路寄与分のみの)(基準)濃度を求めるものである。とくに、有風時(風速が一メートル/秒を超える状態)にはプルームモデルを基本とした拡散式(建設省技術指針第5の3の(2)の①記載の算式(イ))を用いて風向別基準濃度を、弱風時(風速が一メートル/秒以下の状態)にはパフモデルを基本とした拡散式(建設省技術指針第5の3の(2)の②記載の算式(ロ))を用いて昼夜別基準濃度を、それぞれ算出する(この場合の基準濃度とは、排出量を単位排出量に、風速(有風時の場合)を単位風速に設定した場合に拡散式を用いて算出される各点煙源からの排出ガスの予測地点における濃度を合計したものである。)。こうして求めた予測地点における有風時の風向別基準濃度と弱風時の昼夜別基準濃度のほか、時間別平均排出量及び時間別の気象条件(年平均時間別有風時・弱風時出現割合、年平均時間別風向別出現割合、年平均時間別平均風速等)を用いて、有風時の年平均時間別濃度と無風時の年平均時間別濃度を求め、これらを加重平均することにより、予測地点における年平均時間別濃度を算出する。そして、これから各時間別の濃度の二四時間平均を計算することにより、当該予測地点における(道路寄与分のみの)年平均濃度を求める。このように、年平均時間別濃度を平均して年平均濃度を算出するのは、排出量算出の基礎データである交通量が年平均の時間別交通量の精度でしか求められないためである。

本件環境影響評価も以上に述べた方法によったものであり、後記認定のとおり、統計的データ等によって得られた風向・風速、排出源からの排出量、予測地点と排出源の位置関係、拡散幅に関するデータを用い、各物質ごとに、本件予測地点における有風時の風向別基準濃度(プルームモデルを基本とした拡散式を用いている。)、弱風時の昼夜別基準濃度(パフモデルを基本とした拡散式を用いている。)を算出し、時間別平均排出量及び時間別の気象条件を設定して、(道路寄与分のみの)年平均時間別濃度を算出した。そして、これから各時間別の濃度の二四時間平均を計算することにより、本件予測地点における(道路寄与分のみの)年平均濃度を算出したものである。

なお、北勢バイパスの建設予定ルートの沿道(特に「三滝台・浮橋」地点付近)はなだらかな丘陵地とその間の低地からなる地形であり、また、低層の一戸建て住宅を主体とする地区であるから、道路からの大気拡散を予測する際の前提となる風の流れはほぼ一様であると想定され、拡散場は単純であり、前記の拡散式が想定している仮定との整合性があるから、プルームモデルを基本とした予測式及びパフモデルを基本とした予測式を用いたことは適切である。

ロ 窒素酸化物から二酸化窒素への変換式

以上の拡散計算によって求められる予測点における濃度は、窒素酸化物に関しては、窒素酸化物全体についてのものであるが、自動車から排出された一酸化窒素は拡散の途中で二酸化窒素に変換されること、窒素酸化物の環境基準は二酸化窒素について設定されていることから、年平均窒素酸化物濃度から年平均二酸化窒素酸化物濃度を算出する必要がある。建設省技術指針では、窒素酸化物濃度から二酸化窒素濃度を算出する経験式として、昭和四九年から昭和五七年にかけて環境庁が収集した全国の一般環境大気測定局及び自動車排出ガス測定局の年平均値を用い、自排局の値から、その自排局と同一市町村内にある全ての一般局の平均値を差し引いて、道路の影響を考えられる窒素酸化物及び二酸化窒素濃度を算出し、回帰分析を行って求めた変換式(別紙10①NOX変換式参照)を用いている。本件環境影響評価も建設省技術指針の変換式によっている。

窒素酸化物変換式には、他に一般大気測定局の変換式や自動車排出ガス測定局の変換式があるが、前者は窒素酸化物中に二酸化窒素の占める割合が相当程度大きい一般大気(ただし、窒素酸化物自体の濃度は小さい。)を前提としたもの、後者は道路(を走行する自動車)からの排出ガスと一般大気(バックグラウンド濃度)との混在した状態を前提としたものであるから、本件環境影響評価において採用した道路(を走行する自動車)からの排出ガスのみを前提とした変換式は、他の変換式と比較して最も値が低く出る。しかし、当該道路事業の実施に伴う環境に対する影響を調査、予測及び評価するという観点からすれば、当該事業である道路(を走行する自動車)からの排出される二酸化窒素の影響を適確に把握することが必要であって、そのためには自動車の排出ガスのみを前提とした変換式を用いる(その後にバックグラウンド濃度を加算する)ことは適切であるといえる。

また、本件環境影響評価で採用した変換式による予測値は、自排局である四日市市納屋小学校地点における昭和五九年の実測値を0.002PPM下回るに過ぎず、三滝台地区により近距離にある同じく自排局である東名阪測定局における昭和六一年ないし平成七年の実測値ともほとんど差がない(予測値が実測値を下回る結果となっているのは昭和六一年のみであり、その差も0.001PPMに過ぎない。)。したがって、本件環境影響評価が採用した変換式は、実態を適切に反映したものである。

ハ バックグラウンド濃度の加算

計画路線にかかる大気汚染の評価を行う場合、当該道路以外の発生源に起因する大気汚染の影響が無視できないため、その影響の程度を把握した上で、当該対象事業による影響を評価する必要がある。この当該道路以外の発生源による一般環境の大気汚染濃度をバックグラウンド濃度といい、大気汚染に関する評価は、計画路線に起因する濃度にバックグラウンド濃度を加えて評価する必要がある。

予想対象時期における大気汚染のバックグラウンド濃度の設定方法には、国又は地方公共団体が将来の広域大気汚染環境の予測を行っている場合にはそれを使用する方法、将来の土地利用、排出規制の状況等から現況濃度値の変化を見込む方法や広域拡散モデルにより拡散計算を行って将来濃度を推定する方法があるが、これが困難な場合には将来の排出量の低減を見込んで、評価当時の現況濃度をそのまま用いることも許される。本件環境影響評価においても、将来の推定量の予想を行うことは困難であったため、バックグラウンド濃度としては、一般環境大気測定局の近時の測定値を用いており、「三滝台・浮橋」地点に関しては、二酸化窒素については、昭和五九年度の四日市商業高校の年平均値である0.014PPMを、一酸化炭素については昭和五三年度の四日市市納屋小学校の年平均値である0.8PPMを用いている。二酸化窒素のバックグラウンド濃度として昭和五九年度のデータを用いたのは、被告(建設省)による事業計画の策定から本件環境影響評価の実施を経て都市計画変更決定の手続に至る過程において、これが採用可能な最新データであったからである。そして、四日市商業高校における二酸化窒素濃度の年平均値は、昭和五五年度が0.011PPM、同五六年度が0.016PPM、同五七年度が0.015PPM、同五八年度が0.014PPMであって、昭和五九年度における年平均値も、同地点における平均的な二酸化窒素濃度である。なお、同地点における二酸化窒素濃度の年平均値は、昭和六〇年度及び同六一年度が0.013PPM、昭和六二年度が0.014PPM、昭和六三年度ないし平成二年度が0.016PPM、平成三年度が0.017PPM、平成四年度が0.016PPMであって、ことさらに低い値を採用したとも言い難い。

ニ 一日平均濃度への換算

大気汚染の環境保全目標は環境基準に適合することであり、環境基準は「一時間値の一日平均値」(一日平均濃度)をもって定められているところ、以上の方法によって求められる予測値は年平均濃度によるものであるから、環境保全目標を達成するかどうかを検討するためには、年平均濃度を一日平均濃度へ換算する必要がある。

ところで、環境基準に適合するかどうかは、年間にわたる一時間値の一日平均値である測定値(予測値)のうち、測定値の高い方から二パーセントの範囲にあるものを除外して評価を行うものとされている(昭和四八年六月一二日付け環大企第一四三号各都道府県知事等あて環境庁大気保全局長通知「大気の汚染に係る環境基準について」第1の3の(2)、第3の2。昭和五三年七月一七日付け環大企二六二号各都道府県知事等あて環境庁大気保全局長通知「二酸化窒素に係る環境基準の改定について」第1の3の(1))から、年平均濃度を一日平均濃度へ換算するために用いられる変換式は、年間のうち低い方から九八パーセントに相当する一日平均濃度(年間九八パーセント値)を求めるものである(九八パーセント値変換式)。この際用いられる九八パーセント値変換式は、別紙10②九八パーセント変換式記載のとおりであるが、環境庁が収集する全国の自動車排出ガス測定局の昭和五五年度から昭和五七年度までの三か年の二酸化窒素の年平均値と一日平均値の年間九八パーセント値の測定結果を利用して、これらの値の関係についての回帰分析を行った結果作成された算式であるところ、昭和五二年度から平成二年度までの全国の自動車排出ガス測定局の三年毎の測定結果を利用して作成した変換式を使用しても、ほぼ同じ値が推計されることから見て、経年的にも安定した算式である。また、四日市市納屋小学校測定局(昭和五五年度ないし平成八年度)、東名阪測定局(昭和六一年度ないし平成八年度)、亀山市一般国道二五号亀山(平成六年度ないし八年度)及び三雲町国道二三号三雲(平成四年度ないし八年度)において実測された年平均値から前記の九八パーセント変換式を用いて一日平均濃度(年間九八パーセント値)の推計を行い、推計値を各地点において実測された一日平均濃度(年間九八パーセント値)と比較すると、東名阪測定局、一般国道二五号亀山、同二三号三雲では過大推計になる年度もあるものの、変換式による値と実測値を比較してみるとその差は〇ないし0.008PPMにとどまっている。このうち、昭和五九年度の四日市市納屋小学校の実測値から前記の九八パーセント変換式に当てはめて試算した場合の一日平均値(年間九八パーセント値)の推定値は0.053PPMであり、実測値である0.057PPMを僅か0.004PPM下回るに過ぎない。したがって、右算式は実態をよく反映した精度の高いものである。

本件環境影響評価においても、バックグラウンド濃度を加えて求められる年平均濃度を、以上の九八パーセント値変換式に当てはめて、一日平均濃度(年間九八パーセント値)を算出しているが、実態を反映した的確な予測方法であるといえる。

② 以上のとおり、本件環境影響評価で用いられた大気汚染の予測方法は建設省技術指針及びマニュアルに従ったものであるところ、科学的知見に基づきかつ実態を反映した的確な方法であるものと認めることができる。

③ この点、原告らは、被告の採用したバックグラウンド濃度は低すぎる旨指摘するが、前記認定のとおり、ことさらに低い値ということはできないし、前記認定の昭和五九年度のデータを選定した理由に照らせば、予測結果全体の信用性を失わしめるものと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。

また、原告らは、被告の採用した窒素酸化物変換式が、二酸化窒素濃度を過小評価することにつながっている旨主張するが、前記認定の事実に照らせば、原告らの指摘は当を得たものとはいえない。

(2) 風向・風速

① 証拠によれば、本件環境影響評価において用いられた風向及び風速のデータに関し、以下の各事実が認められる。

大気汚染の予測においては、前記認定のとおり、先ず年平均濃度を推定することから、大気汚染の予測に用いる気象データとしては、一日二四時間の風向、風速の時間値データが年間を通じて必要となる。

測定地点は、対象地域を代表するような平均的なデータを得られる地点で、位置的に予測地点の近傍にあり、長期間にわたり観測を継続している測定局であることが必要であり、通常は近傍の気象官署、地方公共団体等の測定局が選定される。また、利用する測定結果としては、通常は、数年間の資料を収集し、異常なデータでないことを確認した上で、最新の一年間のデータを利用する。本件環境影響評価においても、四日市北高校、四日市商業高校等の計四か所の一般環境大気測定局を測定地点とし、昭和五九年度(一年間)のデータを用いている。特に「三滝台・浮橋」地点の予測には、四日市商業高校のデータを用いており、四日市商業高校における昭和五九年度における年間風配図は、別紙10③のとおりである。

「三滝台・浮橋」地点と四日市商業高校地点とを対比すると、その間の距離は約1.8キロメートルで、三滝台から三滝川を挟んで四日市商業高校を目視することができる位置にあり、地形的にはいずれも四日市市内陸部の丘陵地にあり、全体として東南東方向になだらかに低くなる台地上にある。気象条件の類似性を疑わせる要素はない。

また、四日市商業高校と北勢バイパス周辺の大気汚染常時監視測定局五か所[四日市北高校、豊洲原小学、四日市南、鈴鹿算所保育園、東名阪測定局(昭和五九年度を除く。)]の風向・風速の類似性を、昭和五九年度及び平成四年度ないし平成八年度における毎時の風向、風速データ各一年分を使用して、風向、風速の代表性を検証する「窒素酸化物総量規制マニュアル(環境庁大気保全局監修)」に示された方法によって調べてみると、これらの測定局のうち三滝台に四日市商業高校に次いで近い位置にある東名阪測定局と四日市南では、類似性を示すベクトル相関の係数が0.794から0.868と高く、四日市商業高校と東名阪測定局あるいは四日市南では風向・風速の傾向がほぼ同じであると認めることができる。「三滝台・浮橋」地点は、東名阪測定局や四日市南よりも四日市商業高校には至近距離にあり、四日市商業高校とは同一地形上にあるから、これら二つの局よりさらに高い相関がある可能性が極めて高い。

さらに、本件環境影響評価に用いた昭和五九年度の気象データは、当該時点において利用し得る最新のデータであったところ、右「窒素酸化物総量規制マニュアル」に示された基準年の気象が平年の気象に比べて異常でなかったかどうかを統計手法を用いて検定する方法の一つである分散分析による不良標本のF分布棄却検定法によって、四日市商業高校の昭和五九年度の風向データを、その前後の一〇年間の風向データと比較して検定した結果によれば、昭和五九年度は異常年ではなかったものと認められ、四日市商業高校の昭和五九年度の風向データは同所における平均的なデータであったものといえる。

② 以上のとおりであって、「三滝台・浮橋」地点の予測に、昭和五九年度における四日市商業高校の気象(風向、風速)データを用いたことは合理的であったといえる。

(3) 排出源からの排出量

排出源は、予測対象となる道路を走行する自動車であり、排出源からのある一定時間の排出量は、当該道路の車種別時間別交通量と自動車から排出される汚染物質の単位走行距離当たりの量(車種を考慮したもので「排出係数」といわれる。)によって決まる。

そこで、本件環境影響評価において用いられた当該道路の車種別時間別交通量及び排出係数の設定において検討する。

① 車種別時間別交通量

イ 証拠によれば、本件環境影響評価において用いられた車種別時間別交通量の設定に関して、以下の事実が認められる。

予測に用いる車種別時間別交通量は、計画路線近傍の類似した交通特性を持つ道路における現況の一日交通量及び時間別交通量の車種別構成比を参考にし、予測対象時期における計画路線の年平均一日交通量に当てはめて設定される。ここにいう年平均一日交通量は、一年のうちで平均的な日とみなされる一日に交通する交通量であり、道路の設計の基礎とするために当該道路の存する地域の発展の動向、将来の自動車交通の状況等を勘案して推計されるものであり、計画交通量と同義である。

年平均一日交通量(計画交通量)の推計の基本的手法は、四段階推定法といわれるもので、予測対象地域をゾーン(区域)に区分した上、経済指標→発生・集中交通量→分布交通量→配分交通量の順に段階を追って交通量の推計を行うものである。経済指標は、交通量を推定すべき年次における経済活動を表すものであり、人口、業種別就業人口、工業生産高、車種別自動車保有台数等が用いられる。発生交通量は各ゾーンに出発地をもつ交通量、集中交通量は各ゾーンに到着地をもつ交通量、分布交通量は二つのゾーン間を移動する交通量、配分交通量は分布交通量が設定された道路網のうち個々の道路に配分された将来交通量であり、これが各道路の計画交通量に相当するものである。なお、四段階推定法では、交通機関分担交通量(分布交通量を交通機関別に分割した交通量)を分布交通量の次の段階で設定するのが通常であるが、交通機関を自動車に限定した場合は、他の交通機関との分担を観念する余地がないため、交通機関分担交通量の推計は割愛されている。すなわち、計画交通量は、計画目標年次における関連する周辺の道路網の道路規格や設計速度、車線数等について将来の整備状況を勘案し、その時点での地域社会の状況、産業経済の構造、人口配置や経済指標を考慮に入れて推計される自動車交通の増加率等の交通需要をもとに、将来道路網に配分して推計するもので、具体的には、全国道路交通情勢調査をもとに、現在の地区相互間交通量を把握し、人口や経済の伸び等から予想される計画年次の地区相互間交通量を勘案して、将来の道路網に配分して計画交通量として推計される。この一連の方法である四段階推定法は、交通施設計画において需要予測を行う際の一般的な手法である。こうして推計された年平均交通量を、二四時間ごとに大型車と小型車のそれぞれの交通量に分割して得られるのが、車種別時間別交通量である。ここで用いる車種構成の状況(計画道路を通行する自動車の量が時間帯によってどう変化するか、大型車が多いか小型車が多いか)は、計画道路の周辺の類似道路の時間変動パターンを用いて設定することとなる。

本件環境影響評価においても、以上の方法に従って予測対象時期である平成一二年及び平成二二年の計画交通量を推計している。すなわち、予測対象時期である平成一二年については昭和五五年度実施の全国道路交通情勢調査結果を基に、平成二二年については昭和六〇年実施の全国道路交通情勢調査結果を基に、第二名神高速道路を含む中部地域広域の関連する道路網を加味して、前述の四段階推定法により、平成一二年における「三滝台・浮橋」地点の年平均一日交通量を四万三〇〇〇台/日、平成二二年における同地点の年平均一日交通量を四万六〇〇〇台/日と算出した。さらに、北勢バイパスの「近傍の類似した交通特性を持つ道路」として、同じ一般国道である一号及び二三号を選定し、昭和五八年度全国道路交通情勢調査結果の時間変動パターンの平均値を基礎に、車種別時間別交通量を算出している。特に、「三滝台・浮橋」地点については、一般国道一号朝日町縄生の調査結果と同二三号四日市市中納屋の調査結果を用いている(別紙11参照)。

ロ 北勢バイパスは一般国道であって、東名阪自動車道のような自動車専用の高速自動車国道ではないこと、北勢バイパスは一般国道一号及び同二三号と交通分担、道路構造、無料・有料等といった特性が共通するが、東名阪自動車道とは異なっていること及び北勢バイパスが一般国道一号及び同二三号の交通混雑の緩和等を目的に計画された道路であって両道路からの交通の転換が予想されることから、「近傍類似の交通特性」をもつ道路として、東名阪自動車道ではなく、一般国道一号と同二三号を選択したのはより合理的である。また、北勢バイパスは、一般国道一号及び同二三号からの交通の転換が見込まれることから、両道路の交通特性を平均して使用することは、一般的な条件を求めるという環境影響評価の目的からすると不合理ではない。

ハ 原告らは、北勢バイパスと将来の道路網との関連を考えれば、環境影響評価をするには「交通量は、単なる予測交通量ではなく、道路の交通容量を基礎として算出されるべきである」とし、自主アセスにおいて、その量を六万四九〇〇台/日と算出し(甲四)、これに沿う証人西川栄一の証言もある。

しかしながら、前記認定のとおり、四段階推定法による予測は将来の道路網の整備も加味して行われるものであり、本件環境影響評価においても、第二名神高速道路を含む中部地域広域の関連する道路網を加味して予測を行っていることは合理的である。

そもそも道路の交通容量とは、一定の道路条件と交通条件の下で、ある一定の時間内にある道路の断面を通過することができる自動車の最大数をいうのであり、ある道路がどれだけの自動車を通し得るかという機能上の能力を示すものであるところ、交通量は日時、曜日、季節等により変化し、将来の交通量が常時交通容量一杯に流れるということはあり得ないから、交通容量を環境影響評価の基準値とすることは不適切である。仮に、交通容量に達することがあり得るとしても、前記認定のとおり、四段階推定法による交通量の予測は、平成二二年において四万六〇〇〇台/日であるから、交通容量に達する時期は平成二二年以降の遠い将来ということとなり、本件バイパスの供用によって発生する可能性のある大気汚染及び騒音の予測を行う上ではいかにも合理性を欠く前提といわざるを得ない。

また、原告らは、北勢バイパスの「近傍類似の交通特性」をもつ道路としては、東名阪自動車道を選択すべきである旨主張し、原告らが実施した東名阪自動車道の交通量調査によれば、同自動車道の一日交通量は五万一七六九台であるから、被告の予測は交通量を過少に見積もっており合理性がないと主張する。証拠によれば、原告らが平成四年四月二三日(木曜日)に毎正時五分間計測した結果より一日交通量を推計すると、五万一七六九台となること、被告が平成七年六月二九日(木曜日)に測定した名阪国道友生跨道橋における交通量が、五万七七三四台であること、四日市東インターチェンジと四日市インターチェンジの間の東名阪自動車道の一日平均交通量が平成三年度において五万一八九一台、平成七年度において五万七一二一台であり、東名阪自動車道の一日平均交通量が被告の予測値を上回っていることが認められるけれども、前記認定のとおり、北勢バイパスの目的、機能、計画概要等に照らせば、一般国道一号及び同二三号の平均値を利用する方がより合理性を有することは明らかである。

② 排出係数

イ 証拠によれば、本件環境影響評価において用いた排出係数に関して、以下の事実が認められる。

排出係数とは、一台の自動車が単位距離を走行する間に排出する当該物質の重量のことである。予測に用いる排出係数には実際の道路上を走行している状態である実走行モード(実際に道路を走行すると、アイドリング加速、定速、減速が組み合わされるので、それらを加味した実際の道路における自動車の走行状態をいう。)を、シャシダイナモ試験により再現して測定された結果を利用する。

建設省では、シャシダイナモ試験により測定された一台づつの自動車の排出係数を一般国道で調査した車種構成比等を考慮して合成することにより、大型車類と小型車類に分けて、年式別、車種別、走行速度別に排出係数を算定しており、その排出係数が大気拡散の予測に用いられている。本件環境影響評価において用いられた排出係数は別紙12のとおりであるが、合成された二車種分類の排出係数を用いて、排出ガス量の予測計算を行っている。具体的には、道路走行時における自動車の排出ガス量に関する研究(足立義雄他四名、土木研究所報告 NO.一六四―三。昭和五九年実施)に依拠するものである。排出係数は、排出規制の強化により低減する傾向にあり、本件環境影響評価において用いられている排出係数が平成一二年と平成二二年とで異なるのも、排出規制の強化を反映したものであり、自動車からの排出ガス量は本件バイパスが実際に供用される時点ではより小さい値となるものと予測される。

東京都が自動車の排出ガスの実態を明らかにするために実施した「東京都内自動車排出ガス排出量算出調査報告書」(昭和五七年度のもの)には、右調査の結果判明した排出係数が記載されているが、年式別自動車保有台数比が昭和六五年度までしか求められておらず、走行速度も四五キロメートル/時までしか設定されていないから、右調査結果によっては、本件環境影響評価において必要とされる、平成一二年(昭和七五年)における年式自動車保有台数比を考慮した上での時速六〇キロメートル/時の排出係数を算定できない。

また、予測に用いる平均走行速度は、一般的に、道路交通法施行令で定める最高速度を利用する。規制速度をあらかじめ設定できる場合には、規制速度とする場合もある。本件環境影響評価で予測に用いた平均走行速度は、道路交通法施行令一一条二七項の2による高速自動車国道以外のその他の道路における自動車の最高速度である六〇キロメートル/時としている

ロ 原告らは、東京都の資料に基づき計算されるべきである旨主張するが、前記認定事実に照らせば、原告らの主張に理由がないことは明らかである。

③ したがって、一般国道一号及び同二三号のデータの平均値を使って、平成一二年においては一日交通量四万三〇〇〇台、平成二二年においては一日交通量四万六〇〇〇台、走行速度六〇キロメートル/時を前提とした大気汚染予測を行ったことは、環境影響評価としては適切であるものと認められる。

(4) 予測地点と排出源の位置関係(道路条件等)

証拠によれば、本件環境影響評価で用いられた予測地点と排出源の位置関係(道路条件等)について、以下の事実が認められる。

拡散計算に必要な道路条件には、道路構造、車道部幅員及び路面高さがあるが、建設省技術指針及びマニュアルによれば、周辺の道路構造、地形、沿道における既存住宅の位置等を考慮して、代表的な予測地点(区域及び断面)を選定し、道路部全幅員、車道部幅員、計画路面と周辺地盤との高低差等を設定することとされる。

道路近傍の拡散現象をより忠実に再現して予測をするために、路面位置は、実際の計画路面ではなく、平面、盛土、切土、高架、遮音壁の有無といった道路構造にしたがい、個別に設定する(仮想路面)。例えば、切土断面あるいは遮音壁を設置している道路の場合は、切土法面、遮音壁等により排出ガスが上方に拡散され、排出源の高さが遮音壁等の高さに対応して見かけ上高くなったと同じ効果が現れるため、切土法面においては周辺地盤と同じ高さに、遮音壁を設置している道路においてはそれらの上端に仮想路面位置を設定する。

自動車の排気管は路面から0.2ないし0.5メートルくらいの高さにあるが、これから排出されたガスは自動車の走行によって起こされる空気の乱れによって上方へ拡散し、その後地上を吹く風によって、沿道へと拡散していくことになるため、プルームモデル及びパフモデルを適用する際の排出源の高さは路面位置より高く設定する必要があるため、排出源の高さ(垂直方向)は、自動車からの排出の場合には、設定された路面位置から一メートルとしている。これは煙突からの煙の拡散を予測する際に、煙突の高さに加え、煙が煙突から排出された直後は煙の温度が高いために垂直上昇し、その後風に運ばれて拡散する現象とを考慮して有効煙突高を設定するのと同じ考え方である。

また、自動車が走行していることを想定して、予測断面の前後(水平方向)二〇メートルでは二メートル間隔で、その両側一八〇メートルは一〇メートル間隔で、前後四〇〇メートルにわたり、連続した点煙源を配置する(別紙13参照)。これは、距離が離れるにつれて予測地点に到達する汚染物質の濃度が薄くなって影響が小さくなることから、四〇〇メートルに配置して計算すればほぼ無限に配置した場合の結果を表しうること、計算上、無限に配置することが不可能かつ無意味なことから、長さを限って点煙源を配置しているものである(各点は車道部の中央とする。)。

本件の予測地点の位置は、別紙14大気汚染騒音予測地点位置図のとおりであるが、いずれも沿線の状況を代表する地区内にあり、原告らの居住する四日市市「三滝台・浮橋」地点も含まれている。特に、三滝台地区は第一種住居専用地域であり環境上保全すべき住居等があり、三滝台を通過する北勢バイパスの道路構造は切土構造であり、切土高さ、道路全幅員の状況及び既存住居の位置を勘案し、代表的な断面が選定されているものであり、自動車排出ガスの沿道への拡散を予測するために適切な位置及び断面である。「三滝台・浮橋」地点における断面図は、別紙4のとおりであり、道路構造が切土であるため、周辺地盤と同じ高さに路面位置が設定されている。

排出源の高さは、本件環境影響評価においても、路面位置から点煙源を一メートルとし、予測断面の前後(水平方向)二〇メートルでは二メートル間隔で、その両側一八〇メートルは一〇メートル間隔で、前後四〇〇メートルにわたって点煙源を連続して配置している。

(5) 拡散幅

証拠によれば、本件環境影響評価で用いた拡散幅に関し、以下の事実が認められる。

建設省技術指針によれば、拡散幅等の設定は既存のデータ等を参考に適切に設定するものとされているところ(第五の3の(2)の5)、拡散幅は、建設省の各地方建設局が道路構造別に道路周辺の拡散性状を測定した結果を用いて建設省土木研究所が推定した算出式により、建設省技術指針に定められている一定の係数と計画道路の車道部端から予測地点までの距離及び車道部幅員から算出される。本件環境影響評価の拡散計算に用いた拡散幅等の設定も以上の方法によるものであり、その詳細は、別紙15記載のとおりである。このうち、弱風時の拡散係数の設定については、前記の実測に基づく検討の際行われた路端濃度の分析において、昼夜別に整理した場合に有意な差が認められたため、弱風時に用いる拡散係数のうち、水平方向の拡散幅を表すαは0.3、鉛直方向の拡散幅を表すγは、午前七時から午後七時までの昼間においては0.18、午後七時から午前七時までの夜間においては0.09と設定されている。これは、秋から冬にかけての風の弱い晴れた日の夜間に気温の接地逆転層が発生し、排出ガスが拡散しにくくなることなどの影響と考えられる。したがって、鉛直方向の拡散幅を表すγについては、接地逆転層の影響を考慮した結果、昼夜で拡散係数が異なることとなったものである。

(三) 大気汚染の評価方法

(1) 大気汚染に係る環境保全目標及び評価方法

証拠によれば、本件環境影響評価における大気汚染にかかる評価方法に関し、以下の事実が認められる。

建設省技術指針第6の2によれば、大気汚染の評価は、予測結果を環境保全目標に照らして行うものとされており、右環境保全目標は、環境基準に適合することとされている。本件において大気汚染の予測項目と選定された一酸化炭素に係る環境基準は、「大気の汚染に係る環境基準について(昭和四八年五月八日環境庁告示第二五号)」により、「一時間値の一日平均値が一〇PPM以下であり、かつ、一時間値の八時間平均値が二〇PPM以下であること」であり、二酸化窒素に係る環境基準は、「二酸化窒素に係る環境基準(昭和五三年七月一一日環境庁告示第三八号)」により、「一時間値の一日平均値が0.04PPMから0.06PPMのゾーン内又はそれ以下であること」であるから、前記の方法によって算出した一日平均濃度の予測値(年間九八パーセント値)が右基準を上回るかどうかを検討することになる。ここで、二酸化窒素の環境基準について、環境基準値がゾーン(幅)で示されているのは、現況濃度との比較において、できる限り現況濃度以下であるように維持するよう努めるべきであることを示すものであり、環境基準に適合しているかどうかは一日平均濃度(年間九八パーセント値)が0.06PPMを超えているかどうかで判断される。本件環境影響評価も以上の方法によっている。

(2) 予測結果に対する評価

① 証拠によれば、本件環境影響評価の大気汚染の評価結果は、以下のとおりと認められる。

一酸化炭素の一日平均濃度(年間九八パーセント値)の平成一二年における予測値は、本件予測地点において、1.8PPMないし1.9PPMであり、環境基準である一〇PPMをかなり下回る。特に「三滝台・浮橋」地点では、1.9PPMと予測される。二酸化窒素の一日平均濃度(年間九八パーセント値)の予測値は、本件予測地点において、0.027PPMないし0.045PPMであり、環境基準である0.06PPM以下である。特に「三滝台・浮橋」地点では、0.044PPMと予測される。また、一酸化炭素の一日平均濃度(年間九八パーセント値)の平成二二年における予測値は、本件予測地点において、同様に1.8PPMないし1.9PPMであり、環境基準である一〇PPMをかなり下回る。特に「三滝台・浮橋」地点では、1.9PPMと予測される。二酸化窒素の一日平均濃度(年間九八パーセント値)の予測値は、本件予測地点において、0.025PPMないし0.041PPMであり、環境基準である0.06PPM以下である。特に「三滝台・浮橋」地点では、0.041PPMと予測される。このように平成二二年においては前提となる一日平均交通量が平成一二年に比して増加しているにもかかわらず、自動車排出ガス規制の強化による排出係数の減少を反映して、大気汚染の程度は減少する予測結果となっている。

② 以上のとおり、本件環境影響評価によれば、本件予測地点において、一酸化窒素濃度及び二酸化窒素濃度とも環境基準に適合するので、環境保全目標を達成するとの評価を得ている。

5  本件環境影響評価の騒音の予測及び評価

(一) 騒音の予測項目の選定

(1) 証拠によれば、本件環境影響評価において用いた騒音の予測項目に関し、以下の事実が認められる。

自動車から伝播する騒音は、騒音のレベルが不規則かつ連続的にかなりの範囲にわたって変化する変動騒音であるところ、変動騒音の場合、時間率騒音レベルか、あるいは、等価騒音レベルによって評価される。前者は統計量で、五〇パーセント時間率騒音レベルである中央値(L50)(以下、単に「中央値」という。)はその一つの指標であり、後者は物理量である。いずれで評価するかは個々の規定によるが、騒音規制法(昭和四三年法律第九八号)及び「騒音に係る環境基準について(昭和四六年五月二五日閣議決定)」において、自動車交通騒音の評価は原則として中央値とするとされていることを勘案し、建設省技術指針第5の5は、騒音の予測項目は、騒音レベルの中央値とするとしている。中央値とは、不規則に変動する騒音レベルの統計的な中央値のことで、観測時間中の五〇パーセント時間率騒音レベルである。前記のとおり、中央値は、当該時間の騒音レベルの上下動を反映し得る統計量であり、当該地域の環境騒音を全体として把握するのに相当な指標である。そして、建設省技術指針(及び環境基準)は、中央値を予測項目として定め、これを評価の基礎としているから、ピーク騒音や等価騒音レベル等によって予測をしても、これに基づいた騒音の評価をすることはできない。そのため、現在でも、自動車から伝播する騒音の測定、予測、評価の指標として中央値を用いることが一般的であり、等価騒音レベルは評価尺度として確立したものとは言い難い。したがって、本件環境影響評価においても、中央値を予測項目として選定している。また、自動車交通騒音の予測は、一日二四時間の各時間について行うことを原則とするが、道路に面する地域の騒音に係る基準が朝、昼、夕、夜の時間の区分毎に指定されていることを勘案して、各時間の区分のうち最も騒音の影響が大きくなる時間を特定できる場合には、その時間についてのみ予測することで十分であり、一般に、各時間区分において騒音の影響が最も大きくなる時間は、交通量あるいは換算交通量(大型車の台数を小型車に換算した台数と小型車の台数を合計した交通量)が最も多くなる時間と一致し、本件環境影響評価においても、そのような方法によっている。

(2) 以上のとおり、本件環境影響評価において、中央値を騒音の予測項目として選定しているのは、適切というべきである。

この点について、原告らは、ピーク騒音は、交通量に関係なく、大型車通過時に断続的に発生するため、騒音レベルの中央値による予測によると、ピーク騒音が無視されてしまうので適切でないと主張するが、前記のとおり、ピーク騒音によって騒音の予測を行うことは困難というべきである。

(二) 騒音の予測方法

(1) 予測式等

① 証拠によれば、本件環境影響評価における道路交通騒音の予測方法は、以下のとおりと認められる。

道路交通騒音の予測方法としては、いくつかの方法があるが、解析的モデルとして、自動車を等間隔で一列に並べ、一定速度で走行しているとみなしている等間隔モデルがあり、道路交通騒音に関していえば、通常の道路では自動車は必要な車間距離を保って走行するので、等間隔モデルを使用することが可能かつ相当である。等間隔モデルは、一定の地点での自動車騒音の中央値は、パワーレベル(音源の音の強さ)、音源から予測点までの距離、平均車頭間距離、回折減衰による補正値(遮音壁や切土の法肩のような障害物があるときに、音が障害物にさえぎられて回折して伝播することにより減衰する程度を表す変数をいう。)、種々の原因による補正値(音が伝播していく際に地表面、樹木、空気による吸収、気象等様々な要因の影響を受けて、伝播距離に比して過剰に減衰する程度を表す変数をいう。)によって決せられるという考えに基づいた予測式である「一列等間隔等パワーモデルを基本とした予測式」(いわゆる「日本音響学会式」)(建設省技術指針第5の5の(2)記載の算式)により表現される(別紙16参照。なお、その概略については、別紙17参照)。

この算式は、自動車が、通常の道路では、一列で、必要な車間距離を保って(等間隔)並び、一定の速度で走行している(等パワー)という状況を反映したもので、昭和五〇年及び昭和五二年に日本音響学会によって公表されたものを基本とし、建設省等が実測データ、研究報告をもとに検討を繰り返し道路の騒音予測に適するように係数等を設定し直したものであり、建設省土木研究所における研究において、道路沿道で測定された実測データと予測式による予測とを比較した結果、両者が概ね良好な対応関係にあることが検証されている。この算式の適用範囲は、原則として、比較的平坦な地形に平面、盛土、切土、高架道路の各構造が連続しており、自動車が三〇ないし一〇〇キロメートル/時程度の速度で定常的に走行している道路について、路肩端から一六〇メートル(一般道路の場合)ないし八〇メートル(自動車専用道路の場合)までの地点の騒音レベルの中央値を求める場合に限定される。本件環境影響評価も以上の方法によって騒音に関する環境影響評価を行っているが、北勢バイパス建設予定の沿道地域は、なだらかな丘陵地とその間の低地からなり、道路構造は通常四車線道路にみられる規模の平面、盛土、切土、高架であり、さらに走行速度は六〇キロメートル/時に設定されており、予測位置である道路と民地の官民境界も、路肩端から一六〇メートル以内にあり、音の伝播に影響を及ぼす特殊な要因は見当たらないから、一列等間隔等パワーモデルを基本とした予測式を用いたことは適切であったものと認められる。

② 原告らは、一列等間隔等パワーモデルを基本とした予測式は騒音を客観的に反映するものとはいえないと主張するが、以上認定のとおり、右算式は実験等によるデータによって裏付けられたものであって、信用性は高いというべきである。

(2) パワーモデル(音源の音の強さ)

① 証拠によれば、本件環境影響評価において用いられたパワーレベルに関し、以下の事実が認められる。

走行に伴って自動車自体から発生する騒音は、車種や走行条件等によって異なり、自動車の各部位から発生する騒音が合成されて伝播してくる。したがって、自動車交通騒音の予測においては、車種及び走行速度を考慮し、自動車各部位から発生する騒音を全て含めた自動車から発生する騒音を路肩付近で実測し、この実測された騒音レベルから換算された平均パワーレベルを設定し、それを用いて予測を行う。算出式は、自動車の構造改善により加速走行騒音の規制が強化され、騒音が自動車の年式ごとに異なり、年式が新しくなる毎に平均的に減少していく傾向にあることを考慮に入れているところ、パワーレベルは、右算出式に、設定された自動車の走行速度と当該道路の車種混入率(車種構成比と同義である。)を代入することにより算出される。ここで用いる走行速度及び車種混入率(車種構成比)等の交通条件は、大気汚染の場合と同様に、近傍類似の交通特性を持つ道路の現況を参考にして設定する。

昭和五一年六月に中央公害対策審議会より「自動車騒音の許容限度の長期的方策について」として、自動車加速走行騒音の許容限度設定目標が二つの段階に分けて答申され、第一段階目標は昭和五四年規制として告示され、第二段階目標は車種別に順次告示され、昭和六二年規制をもって全ての規制が確定した。第二段階目標に基づく規制は、「第二段階規制」(昭和五七年規制ないし六二年規制)といわれる。そして、本件環境影響評価においては、パワーレベルの算出式については、以上の自動車構造の改善による騒音の低減を考慮して、第二段階規制に基づく車種を前提とする算出式を適用している。これは、予測年次である平成一二年には全車両が昭和六二年規制に適合していることは確実と見込まれることに基づいている。また、走行速度は、法定速度である六〇キロメートル/時とし、車種混入率(車種構成比)は、大気汚染の場合と同様、近傍類似の交通特性を持つ道路として選定した一般国道一号及び同二三号のデータの平均値を用いている。なお、前記のとおり、予測対象時間は、朝、昼、夕、夜の時間の区分毎に騒音の影響が最大となる時間としており、時間区分毎に車種別混入率等の交通条件の設定も異なっており、夜間において車種別混入率が増加することも考慮済みの予測である。

② したがって、走行速度を六〇キロメートル/時とし、車種混入率(車種構成比)として、近傍類似の交通特性を持つ道路として選定した一般国道一号及び同二三号のデータの平均値を用い、第二段階規制に基づく算出式を用いて、パワーレベルを算出したことは適切といえる。

(3) 音源から予測点までの距離

証拠によれば、本件環境影響評価において用いられた音源から予測点までの距離に関し、以下の事実が認められる。

計画路線の道路条件(道路構造)、周辺の地形、沿道における既存住宅の位置等を考慮して、代表的な予測地点(区域及び断面)を選定する。本件環境影響評価における騒音の予測地点も大気汚染の予測地点(本件予測地点)と同一であり、「三滝台・浮橋」地点も含まれている。

また、予測位置については、一般的に道路から発生する騒音の場合には、水平方向には音源に近いほど騒音レベルが高くなること及び鉛直方向には現状調査を実施する測定高さを考慮して、原則として予測位置は道路と民地の官民境界における地上1.2メートルの高さに設定する。本件環境影響評価においても、予測位置は道路と民地の官民境界における地上1.2メートルの高さに設定されている。

実際の道路は、多車線道路であるので、複数の線状音源を持った道路を個々に計算して合成することになるが、その場合の実際の車線数に対応した計算上の線状音源の数と位置の決め方は、一車線又は対向二車線の場合には道路の中央に一つの音源を設定し、上下分離の片側二車線又は三車線の場合には上下各車道の中央にそれぞれ一つの音源を設定する。音源の高さは平均的な高さをとって、設定路面から0.3メートルの高さとする。本件環境影響評価においても、以上の方法によっており、北勢バイパスが上下方向に各二車線の道路であることから、上下各車線の中央に一つの音源を設定し、いずれも設定路面から0.3メートルの高さにあるものと設定している。

(4) 平均車頭間距離

証拠(乙一三の7、同一六の1、2、四九、八三の3、証人足立義雄)によれば、本件環境影響評価における平均車頭間距離の算定方法は、以下のとおりと認められる。

車頭間距離は時間別交通量と走行速度によって算出されるところ、これらは大気汚染の場合と同様、法定速度、近傍類似の交通特性を持つ道路の現況を参考にして設定ないし算定する。本件環境影響評価においても、以上の方法によっており、大気汚染の場合と同様、近傍類似の交通特性を持つ道路として選定した一般国道一号及び同二三号のデータの平均値を用いて時間別交通量を算出し、走行速度を六〇キロメートル/時と設定し、これにより平均車頭間距離を算定している、

(5) 回折減衰(遮音壁のような障害物があるときに音が障害物に遮られて回折することにより減衰する現象をいう。)による補正値

① 証拠によれば、本件環境影響評価において用いられた補正値について、以下の事実が認められる。

音源と予測点の間に障害物がある場合には、音の回折によりかなりの減衰効果が得られるため、その効果を考慮する必要があるところ、建設省技術指針によれば、補正値の設定については、既存のデータを参考に設定するとされ、回折減衰による補正値は、音源と受音点(予測点)との間の障害物(遮音壁、切土の法肩等)の有無により、行路差(音の伝播経路の差)を求め、実験と実測データに基づいて作成されている補正値表から読み取る。本件環境影響評価においても、マニュアルの定める補正値表を用いて回折減衰による補正値を求めている。

② したがって、本件環境影響評価において用いられた回折減衰による補正値は、実験、実測に基づく資料に基づいて設定された適切なものである。

(6) 種々の原因による補正値

① 証拠によれば、本件環境影響評価において用いられた補正値について、以下の事実が認められる。

音源から受音点に音が到達する間に音の強さは減衰することろ、距離減衰以外に、地表面の影響、樹木の影響、空気吸収の影響、気象の影響等種々の要因により、距離減衰以上に大きく減衰することが知られているところ、これらの原因による補正値は、平面構造、盛土構造、切土構造、高架構造等の道路構造別に、数多くの実測結果と等間隔モデル式による計算値との差に基づいて決定され、この差を道路構造別、受音点高さ別、路肩端からの距離別に整理した一覧表から補正値を読み取って求められる。本件環境影響評価においても、本件予測地点の道路構造別に、マニュアルの定める一覧表を用いて求めている。

② したがって、本件環境影響評価において用いられた種々の原因による補正値は、実測に基づく資料に基づいて設定された適切なものである。

(7) 中央値の算出

証拠によれば、本件環境影響評価は、以上のデータを用い、一列等間隔等パワーモデルを基本とした予測式によって中央値を求めていることが認められる。

(三) 騒音の評価方法

(1) 騒音に係る環境保全目標

① 証拠によれば、本件環境影響評価における騒音に係る環境保全目標に関し、以下の事実が認められる。

環境影響評価における環境保全目標は、騒音レベルの中央値が、原則として、以下に示す値以下であることである(建設省技術指針第6の4の(2))。この値は環境基準(昭和四六年五月二五日閣議決定「騒音に係る環境基準について」)において、道路に面する地域について定める値と同一であるから、騒音の環境保全目標も、道路事情に関する評価についていえば、実質的には環境基準に適合することである。

なお、騒音レベルの単位として、建設省技術指針においては「デシベル(A)」が用いられているのに対し、環境基準においては「ホン(A)」が用いられているが、両者は、同一の音圧レベルを表すものである。

ⅰ A地域のうち、

二車線を有する道路に面する地域

昼間 五五デシベル(A)

朝・夕 五〇デシベル(A)

夜間 四五デシベル(A)

二車線を超える車線を有する道路に面する地域

昼間 六〇デシベル(A)

朝・夕 五五デシベル(A)

夜間 五〇デシベル(A)

ⅱ B地域のうち

二車線以下の車線を有する道路に面する地域

昼間 六五デシベル(A)

朝・夕 六〇デシベル(A)

夜間 五五デシベル(A)

二車線を超える車線を有する道路に面する地域

昼間 六五デシベル(A)

朝・夕 六五デシベル(A)

夜間 六〇デシベル(A)

なお、右の時間の区分は、昭和五〇年四月二二日三重県告示第二六八号により、朝とは午前六時から午前八時まで、昼間とは午前八時から午後七時まで、夕とは午後七時から午後一〇時まで、夜間とは午後一〇時から翌日の午前六時までをいう。また、「地域」区分は、都市計画法にいう都道府県知事の指定する用途地域に準拠したものであり、A地域とは、第一種住居専用地域、第二種住居専用地域、住居地域をいい、B地域とは、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域をいう。

前記認定のとおり、予測対象時間については、朝・昼間・夕・夜間の四つの各時間区分の中で最も騒音の影響が大きくなる時間を特定して、その時間について予測することで、騒音の影響を把握でき、一般に、各時間区分において騒音の影響が最も大きくなる時間は、大型車の台数を小型車に換算した合計の交通量が最も大きくなる時間と一致する。

北勢バイパスの計画路線周辺は、ほとんど環境基準に係る地域の指定が行われていないが、騒音の評価については、土地の利用状況に配慮し、本件予測地点全てを適用基準が最も厳格なA地域の類型として評価することとしており、また、北勢バイパスが四車線(上下各二車線)の道路であるから、前記の環境保全目標のうち、地域の類型がAで二車線を超える車線を有する道路に面する地域における騒音に係る以下の値が、北勢バイパスの計画路線周辺地域における具体的な環境保全目標となる。

昼間 六〇デシベル(A)

朝・夕 五五デシベル(A)

夜間 五〇デシベル(A)

② 原告らは、本来の基準はA地域の夜間の場合は四〇デシベル(A)であり、既に道路に面している地域を前提とした基準を用いるべきではないと主張するが、証拠(乙三二)によれば、昭和四六年五月二五日閣議決定「騒音に係る環境基準について」が「道路の新設に際しては、道路交通騒音低減のための他の施策と併せて、道路に面する地域の環境基準の達成に資するよう、道路計画、その他道路周辺の土地利用計画策定と実施に十分配慮するものとする。」と規定し、道路の新設の場合でも、新設道路に面する地域の環境基準を適用することが認められているから、原告らの右主張には理由がない。したがって、本件環境影響評価が、騒音に係る環境保全目標として、地域の類型がAで二車線を超える車線を有する道路に面する地域における騒音に係る環境基準を選定したことは適切であったと認められる。

(2) 騒音の予測結果及び評価

証拠によれば、本件環境影響評価における騒音の予測結果及び評価に関し、以下の事実が認められる。

① 騒音の評価方法

騒音の評価は、予測結果を環境保全目標に照らして行うが、環境保全対策等の措置を勘案して評価することができる(建設省技術指針第6の4の(1))

② 環境保全対策を講じない場合の予測結果及び評価<省略>

前記認定の各手法を用いて算出された騒音の予測結果は、平成一二年時において別紙7記載の表のとおりであるところ、これによれば、朝は、八か所の予測地点のうち六か所の予測地点で五五ホン(A)を超え(最大六七ホン(A))、昼間は、四か所で六〇ホン(A)を超え(うち二か所は六一ホン(A)、最大六八ホン(A))、夕は、六か所で五五ホン(A)を超え(うち二か所は五六ホン(A)、最大六六ホン(A))、夜間は、六か所で五〇ホン(A)を超える(うち一か所は五一ホン(A)、うち一か所は五二ホン(A)、最大六三ホン(A))との予測結果を得た。特に「三滝台・浮橋」地点では、夜間に最大一〇ホンを上回る。また、平成二二年時における騒音の予測結果は、別紙7記載の表のとおりであるところ、これによれば、朝は、六か所の予測地点で五五ホン(A)を超え(最大六七ホン(A))、昼間は、四か所で六〇ホン(A)を超え(うち二か所は六一ホン(A)、最大六八ホン(A))、夕は、六か所で五五ホン(A)を超え(うち一か所は五六ホン(A)、最大六六ホン(A))、夜間は、七か所で五〇ホン(A)を超える(うち一か所は五一ホン(A)、うち一か所は五二ホン(A)、最大六三ホン(A))との予測結果を得た。特に「三滝台・浮橋」地点では、夜間に最大一一ホン上回る。

したがって、以上の予測結果を環境保全目標に照らすと、予測地点別では、四日市大矢知町及び鈴鹿市末広町以外の地点において環境保全目標を上回り、環境保全対策の検討が必要であるとの評価を得た。

③ 環境保全対策を講じた場合の予測結果<省略>

そこで、環境保全対策として、平成一二年時において1.0ないし2.0メートル(「三滝台・浮橋」地点では2.0メートル)、平成二二年時において1.0ないし3.0メートル(「三滝台・浮橋」地点では2.5メートル)の高さの遮音壁を設置するならば、いずれの予測地点でも環境保全目標を達成できるとの結論が得られた(後記六1(一))。なお、本件環境影響評価においては、道路構造による対策を講ずる場合には、沿道土地利用の動向、交通量の推移による騒音の状況等、地域の状況を十分踏まえて実施していくものとするとされている。

6  権利侵害が発生する具体的危険性の有無

(一) 大気汚染及び騒音の程度

前記認定事実及び証拠を総合すると、本件バイパスの建設及び供用によって発生する大気汚染及び騒音の程度に関し、以下の事実が認められる。

(1) 距離減衰

① 自動車排出ガスの距離減衰

自動車排出ガスは、自動車走行による空気の乱れ、風力(風向・風速)、大気の乱れ等の影響を受けて道路から離れれば離れるほど拡散希釈が一層進むこととなる。道路から離れるに従って拡散希釈が進み、濃度が減少していく現象を自動車排出ガスの距離減衰という。自動車排出ガスがある地域の環境濃度に及ぼす影響の程度は、発生源からの距離のほか、風向、風速、大気の安定状況等が大きくかかわっているため、一様ではない。

建設省土木研究所が昭和五四年三月に一般国道一六号を対象として千葉県八千代市において実施した道路沿道における大気汚染の測定結果によれば、道路沿道の窒素酸化物の濃度は、風速により異なるものの、道路端から風下約五〇メートルまでの間に大幅に減衰し、道路端における観測値の三分の一又はそれ以下になり、その後は緩やかに減衰し、約一〇〇ないし一五〇メートルのところでは付近のバックグラウンド濃度とほぼ同じ値になることが判明している。また、建設省土木研究所が昭和五四、五五年度にわたって全国各地の種々の構造の道路沿道において、窒素酸化物濃度の距離減衰を測定した結果によれば、平面道路においては、自動車から排出された窒素酸化物濃度は道路端から離れるごとに激減し、千葉県八千代市での測定結果と同様に、道路端から五〇メートル離れるとその濃度は道路端の約三分の一に減少し、その後は緩やかに減少してバックグラウンド濃度に近づくことが判明している。

したがって、北勢バイパスから排出された二酸化窒素を含む窒素酸化物の濃度も、道路端から一〇〇ないし一五〇メートル離れた地点においては、距離減衰によりバックグラウンド濃度に近づくものと推測され、本件バイパスから一〇〇ないし一五〇メートル以上離れる地点に居住する原告らが、本件バイパスに起因する大気汚染の影響を受ける可能性は極めて低いものと推測される。

② 騒音の距離減衰

一般に、音はその発生源から遠ざかるに従ってその大きさが減衰するところ、本件環境影響評価における「三滝台・浮橋」地点での騒音の距離減衰の予測によれば、予測地点(官民境界)では六〇デシベル(A)(夜における予測値)であった騒音が右境界から八〇メートル離れることにより二〇デシベル(A)減少して四〇デシベル(A)程度に減衰されると予測されている。

したがって、遮音壁が設置されない場合であっても、本件バイパスから八〇メートル以上離れて居住する原告ら(四〇七名のうち約三六〇名)が、本件バイパスに起因する騒音の影響を受ける可能性は極めて低いものと推測される。

③ 前記認定のとおり、本件環境影響評価によれば、本件予測地点において、一酸化炭素濃度及び二酸化窒素濃度とも、環境保全目標の達成が可能であり、騒音についても、環境保全対策として、平成一二年時において、1.0ないし2.0メートル、平成二二年時において1.0ないし3.0メートルの高さの遮音壁を設置すれば、いずれの予測地点でも環境保全目標を達成できるものと認められるところ、右結果は「本件予測地点」でのものであって、原告ら(住民)の住所は、別紙6記載のとおり予測地点から相当の距離があるから、以上の距離減衰効果によって、本件バイパスの供用に伴って発生する大気汚染及び騒音は、原告らの住所地において、環境保全目標の値をはるかに下回る数値となるものと推測される。

(2) 大気汚染及び騒音の規制強化

前記認定のとおり、本件の環境影響評価の予測対象時期は平成一二年又は平成二二年であり、現行の規制を前提とする予測であるところ、北勢バイパスの建設の進捗状況に照らせば、本件バイパスの供用が平成一二年以降となることは明らかであって、以下に述べるような大気汚染及び騒音に関する各種の規制の強化及び今後期待される技術革新の進展により、走行する自動車の排気ガス及び騒音自体の改善が見込まれるから、本件バイパスの供用によって発生する大気汚染及び騒音は、さらに低下するものと推測される。

① 排出ガス規制

自動車排出ガス規制については、一酸化炭素から始まり、炭化水素、窒素酸化物と順次実施され、昭和四七年一〇月の自動車排出ガス許容限度長期的設定方策により、当時として世界一厳しい窒素酸化物の規制目標が定められ、技術開発の粋を集めて昭和五三年度規制として達成されている。その後、昭和五二年一二月の中央公害対策審議会答申により、窒素酸化物濃度の許容限度が第一、第二段階に分けて目標設定され、さらに、昭和五六年、昭和六一年、平成元年と新たな目標が示され、順次実施に移されている。このように、窒素酸化物に関する自動車排出ガス規制は、これまで鋭意進められ、今後も強化されていく方向となっており、本件の予測・評価時以降にもさらに規制が強化され、これが実現していくものといえる。

また、地球温暖化防止を目的に、非石油系燃料の利用を条件とする低公害車[電気自動車、メタノール自動車(窒素酸化物の排出量はディーゼル車の約半分である。)、天然ガス自動車、ハイブリッド自動車]の普及が進められている。

したがって、本件バイパスの供用開始後の一酸化炭素及び二酸化窒素の濃度は、(少なくとも道路寄与分は)本件環境影響評価で提示された予測値よりもさらに低い値になるものと推測される。

② 騒音対策

騒音対策としては、自動車構造の改善による対策、道路網整備による対策、道路構造の改善による対策(遮音壁の設置、低騒音舗装、環境施設帯の設置等)、道路沿道の環境保全対策、交通規制、交通取締強化、物流合理化等が進められている。

特に、自動車構造の改善については、道路運送車両の保安基準の改正により、昭和四五年以降順次規制が強化され、加速走行騒音、定常走行騒音のほか、近接排気騒音の規制も進められることになっている。

したがって、本件バイパスの供用実施後の自動車走行に伴う騒音は、本件環境影響評価で提示された予測値よりもさらに低い値になるものと推測される。

(二) 大気汚染及び騒音による原告らに対する権利侵害の程度

(1) 本件環境影響評価においては、環境基準を環境保全目標としているところ、公害対策基本法(環境基本法)が環境基準を「人の健康を保護し、及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準」(公害対策基本法九条一項、環境基本法一六条一項)と規定し、「政府は(中略)第一項の基準が確保されるように努めなければならない。」とするにとどまっている(各同条四項)ことに照らせば、環境基準は、将来に向けてのより積極的、先進的な行政上の目標設定を念頭に置いて定められたものであって、政府及び地方公共団体が環境の保全に関する施策を講ずる上で指標となるものであって、これを超えたからといって直ちに人の生命・身体の安全に影響が現れるというものではない。

特に大気汚染に係る環境基準のうち、二酸化窒素についてのものは、WHO(世界保健機構)の大気汚染物質に関する専門委員会が昭和三八年に示した大気汚染のガイドの四つのカテゴリーのうち、「ある値又はそれ以下の値ならば、現在の知見によると、直接的にも間接的にも影響(反射又は適応若しくは防御反応の変化を含めて)が観察されない濃度と暴露時間との組み合わせ」であるレベル1に相当するものであり(昭和四八年六月一二日環大企第一四三号各都道府県知事等あて環境庁大気保全局長通知「大気汚染に係る環境基準について」。)、国民の健康に好ましからざる影響を与えることのないよう、十分安全を見込んで設定されたものである。現行の環境基準は、昭和五三年七月に改定されているが、それでも、「国民の健康保護に問題の生ずるおそれはなく、またこれを超えたからといって直ちに疾病又はそれにつながる影響が現れるものではない」のである(昭和五三年七月一七日環大企第二六二号各都道府県知事等あて環境庁大気保全局長通知「二酸化窒素に係る環境基準の改定について」。)。

また、騒音に係る環境基準についても、「騒音に係る環境基準の指針設定にあたっては、環境基準の基本的性格にかんがみ、聴力喪失など人の健康に係る器質的、病理的変化の発生の有無を基礎とするものではなく、日常生活において睡眠障害、会話妨害、作業能率の低下、不快感などをきたさないことを基本とすべきであ」り、「騒音に係る環境基準はいわゆる狭義の人の健康の保持という見地からではなく、生活環境の保全という広い立場から設定されなければならないと考えられ」ており、環境基準を超えたからといって直ちに人の生命身体の安全影響が現われるものではない。

(2)  前記認定のとおり、本件環境影響評価の結果等に照らせば、本件バイパスが建設・供用されることにより生ずる大気汚染及び騒音の程度は、いずれも環境基準(騒音については建設省技術指針が定める基準値と同一)を超えることはないものと認められるから、以上のような環境基準の設定理由に照らせば、本件バイパスの建設、供用によって生ずる大気汚染及び騒音によって、原告らの生命・身体の安全に被害が及ぶ具体的危険が生ずるおそれがあるものと認めることはできない。

(3) 原告らは、窒素酸化物(二酸化窒素)について、住民への健康影響が生ずる濃度を、現行の環境基準ではなく、昭和五三年改正前の環境基準(昭和四八年五月八日環境庁告示第二五号「大気汚染に係る環境基準」)による値(二酸化窒素の一時間値の一日平均値が0.02PPM以下であること)とすべきとし、これを差止めの基準とすべきである旨主張する。しかし、前記のような環境基準の設定理由に照らせば、環境基準を超えたからといって人の生命・侵害の安全に被害を及ぼす具体的危険性があるものということはできないから、これを差止基準とすべき合理的理由はない。

また、昭和五三年七月一一日、二酸化窒素にかかる環境基準が基準値を緩和する方向で改定されたのは、二酸化窒素に関する科学データの蓄積をふまえ検討を行った結果に基づく、医学、公衆衛生及び測定に関する二〇名の専門家によって構成されている中央公害対策審議会からの答申(昭和五三年三月二二日)を尊重したことによるものである(乙三六)。すなわち、窒素酸化物等に係る環境基準専門委員会は、環境大気中の二酸化窒素濃度の指針として、短期曝露については一時間暴露として0.1ないし0.2PPM、長期暴露については、種々の汚染物質を含む大気汚染の条件下において、二酸化窒素を大気汚染の指標として着目した場合、年平均値として0.02ないし0.03PPMを提案し、一日平均値で定められた環境基準0.04ないし0.06PPMは、年平均値0.02ないし0.03PPMに概ね相当するものであるとともに、この環境基準を維持すれば、一時間値0.1ないし0.2PPMも高い確率で確保することができるとしている。それゆえ、右改定は、科学的根拠を有した正当な理由に基づくものであるから、現行基準を環境保全目標として設定したことに何ら問題はない。

原告らは、三重県の平成四年版環境白書の記載を挙げ、交通量の多い道路では二酸化窒素濃度が高い値を示し、本件バイパス沿道でも高濃度となることが予想されると主張するが、右環境白書に記載されている窒素酸化物の測定局における測定結果によれば、北勢地域の一般環境大気測定局及び自動車排出ガス測定局ともに環境基準以下の濃度を示しているから、これを根拠に本件バイパス沿道で高濃度の大気汚染が生じるものとは到底いえない。なお、原告らの指摘するTEA法による主要幹線沿道調査地点には、「歩道上等、環境基準非適用地点を一部含む」ものであるし(例えば、亀山市御幸町・桑名郡長島町福吉・四日市市天ヶ須賀町は、いずれも道路敷地内の測定結果である。)、TEA法はあくまで簡易測定法であり、環境基準の定めた測定法ではないから、その測定結果を環境影響評価の基礎として使用することは相当でなく、三重県環境白書においてもTEA法による測定結果をもって、各測定点間の相対的評価(比較的判断)を行っているに過ぎない。

したがって、右記載をもって、本件バイパスの沿道で二酸化窒素の濃度が大きくなる蓋然性を示すものとはいえない。

7  原告らのその余の主張に対する検討

(一) 原告らは、①三滝台周辺においては毎日といっていいほど接地逆転層が形成されており、三滝台の気象的特徴は接地逆転層の形成であるところ、②接地逆転層の形成により自動車排出ガスの拡散が妨げられ、局地的な大気汚染の危険性がある、③接地逆転層が形成されると騒音の距離減衰の効果が小さくなり、特に接地逆転層が形成されやすい夜間においては日中と変わらない騒音レベルとなるとし、三滝台付近の環境影響評価をする場合の気象条件を設定するには、接地逆転現象の影響を考慮すべきであるのに、北勢バイパスの環境影響評価書では全く考慮されていないから適切な評価となっていない旨主張する。そこで右主張の当否について検討する。

(1) 気温は平地より上空の方が低いのが普通であるが、何らかの原因によって、気温の低減の原則を破って、上空の方が高温となることがあり、この現象を接地逆転現象というところ、接地逆転現象が起こると上昇気流が起こりにくくなり、大気は安定する(滞留する)。一般的に、秋から冬の風の弱い晴れた日の夜間に赤外線放射により冷えた地表に接した空気が冷却されることによって接地逆転層が生じるとされる。

原告らは、三滝台団地内及び近傍における標高の差のある地点間における気温測定を実施しているところ、その測定結果及び煙による拡散状況の観測結果を接地逆転現象が三滝台に起きている根拠とする。

しかし、三滝台団地内及び近傍での気温観測地点のうち、標高の高い地点とされているところをみると住家の冷暖房器具等からの排熱の影響があるのではないかと考えられる地点も少なくない一方、標高の低い地点は、沢状箇所の田面、調整池の近傍等であって、温度は低く観測される要素を含んでいるという可能性を排し得ないから、両者の測定結果を単純に比較するのは適切とはいい難い。また、接地逆転現象を把握するには、地表付近と上空の同一時刻における気温を測定しなければならないため、ラジオゾンデ(係留気球等に取り付け、電波で自動的に高空の気圧・気温・湿度等を通信する観測機)等を用いて気温を測定することが多いが、原告らによる三滝台団地内及び近傍での気温測定ではこのような手法によったものではないし、測定時刻が三〇分間から一時間のずれがあり、その間の気温の変化が考慮されていないものがあるから、同一時刻における気温を測定したとはいえない。また、原告らの測定結果によれば、通常は逆転層の出現の少ない八月でも大半の日に逆転層が生じていたり、各地点間によって同じ月でも発生頻度が異なっていたりしていることになるが、一般的な接地逆転の発生条件からすると不自然な感が否めないから、右測定結果によって接地逆転現象を把握することは困難といわざるを得ない。

また、原告らが、接地逆転現象の存在を裏付けるものとして援用する拡散状況の観測結果は、煙が滞留していることを示すものではなく、単に煙が水平方向に拡散するという一般的な現象を示している可能性が高いし、二回実施されたうち一回の煙の拡散状況の観察のみで、接地逆転現象が三滝台の特徴であるというのはいささか基礎付ける資料が薄弱といわざるを得ない。

したがって、接地逆転現象の形成が、三滝台の気象的特徴であると認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。

(2) 仮に、接地逆転現象が生じていたとしても、道路沿道における大気拡散については、道路を走行する自動車により起こされる風の影響が強く、相対的に逆転層と大気拡散の関係が明確に検出されにくくなっており、現段階では大気の安定度ごとに大気拡散との関係を検証するところまでには至っていないから、接地逆転層の形成により局地的な大気汚染が発生する具体的な危険性があるものと判断するのは困難といわざるを得ない。また、前記認定のとおり、本件環境影響評価における大気汚染の予測には、接地逆転層の発生を見込んで予測されており、全く考慮していないわけではない。すなわち、前記認定のとおり、本件環境影響評価においては、「②弱風時に使用する拡散幅等」において、拡散幅に関する係数γ(鉛直方向の拡散幅を表す係数)を昼間は0.18としているのに対し、大気の安定する夜間は昼間の二分の一の0.09としているところ、これは逆転層の影響を考慮したものであり、夜間の弱風時に接地逆転が起こりやすく、そのような状態では拡散が弱いためにこれを反映して拡散幅を小さくしているのである。

(3) 原告らの主張のとおり、気象条件によって騒音の減衰の程度が異なり得ることは、一般論としては考えられる。しかし、異なり得る程度は、温度勾配一度/一〇〇メートルにつき、一〇〇メートル離れた地点の地上1.2メートルで0.2デシベル、二〇〇メートル離れた地点の地上1.2メートルで0.3デシベルといった微小な差に過ぎない。

この点、原告らは、自主アセスにおいて行った東名阪自動車道の騒音測定結果によれば、接地逆転が形成される場合、距離減衰は小さくなり、交通量が少なくなっても日中と変わらない騒音レベルとなると認められるとする。しかしながら、自主アセスでは、東名阪自動車道沿道において、騒音測定とともに、サーミスタを使って、地表面及び地上八メートルの気温測定を実施し、その測定結果を得ているが、気温を測定するには太陽の直射日光や地面からの放射熱を避ける措置を講ずべきであるところ、原告らが用いた地上八メートルの位置のセンサーには直射日光を避ける覆い等は設置されていなかったから、これを単純に比較して測定時に接地逆転が生じていたものと認めるのは困難であって、接地逆転時の距離減衰を示すものと判断することはできない。

また、原告らは、自主アセスにおける騒音の測定結果により、ピーク騒音は交通量と関係なく大きく、中央値のみの影響評価では不十分であるとしているが、ピーク値については異常音の影響が極めて大きいところ、原告らの測定に関し異常音の影響が働いていた可能性が否定できない。

原告らは、自主アセスにおける騒音の測定結果により、道路騒音では大型車の影響が大きく、特に夜間のその傾向は顕著となるとしているが、測定結果を子細に検討すると、その測定結果には、道路騒音以外の何らかの影響が働いていた可能性を否定できない。

(二) 原告らは、天谷式カプセルを用いる方法で、東名阪自動車道からの二酸化窒素濃度の距離減衰を測定した結果、四〇ないし八〇メートル離れても汚染レベルはかなり高いとしているが、自主アセスでの測定地点はいずれも東名阪自動車道と交差する道路が選ばれているところ、これらの道路を走行する自動車から排出される二酸化窒素の影響を考慮していないものであり、正確なデータに基づく科学的な評価がなされているとはいい難い。

また、天谷式カプセルを用いる方法は、環境基準が求める「ザルツマン試薬を用いる吸光光度法」ではなく[ちなみに測定局の測定方法はこの方法である。]、簡易的な調査方法であり、一時間値が求められないなど必ずしも正確な測定値が得られない。加えて、証人西川栄一の証言によれば、測定結果を換算する際に用いた換算式ないし換算表は、阪神地域での測定データを基に作成されていることが認められるが、阪神地域と北勢地域とでは大気汚染の状況が異なっていると考えられ、適切な算定結果となっているか疑問の余地がある。

(三) 原告ら住民が、北勢バイパスという大規模道路から将来被害が発生するのではないかと不安を抱き、ついには本訴提起に至った心情については、これを理解し得ないわけではなく、また、本件の自主アセスにおいて各種の測定に参加した原告らが、相当な努力と苦心を払ったことは想像に難くないところである。しかしながら、本件においては、前記認定のとおり高い公共性を有する道路の建設の差止めを求めるものであるから、それが認められた場合の社会的な影響を考えると、原告らが立証責任を負う具体的危険性の立証に当たって依拠する方法についても批判に耐え得る科学的知見に基づく合理的なものであることを要するものといわねばならい。かかる観点からすると、原告らの実施した測定方法及び測定結果並びにその分析結果には、一抹の疑念が残るといわざるを得ないので、本件において原告らの主張を裏付けるに足りる証拠は乏しいといわざるを得ない。

六  被害の防止のための対策及びその内容と効果

1  証拠によれば、本件バイパスの建設及び供用によって生じる大気汚染及び騒音の被害に関して採り得る防止対策等に関し、以下の事実が認められる。

(一) 前記認定のとおり、騒音の環境保全目標達成のために遮音壁の設置が検討されている。

遮音壁の騒音低減効果は、高さ二メートルの遮音壁を設置すれば、回折減衰により、約一一デシベル(A)の騒音低減効果が生じ、遮音壁をより高くすればさらに行路差が長くなるため、騒音レベルはより減少する(例えば、行路差一〇メートルをとることにより約二三デシベル(A)減少する。)。これを「三滝台・浮橋」地点(官民境界)についてみると、道路側約一メートル内の場所に高さ二メートルの遮音壁を設置すると約一二デシベル、高さが五メートルのものであれば約二〇デシベルの遮音効果があると考えられる。それゆえ、若干余裕を見た計算でも、平成一二年時における予測を前提とすれば高さ二メートルの遮音壁を設置することにより、また、平成二二年時における予測を前提とすれば高さ2.5メートルの遮音壁を設置することにより、いずれも同地点における夜間の騒音は四九デシベル(A)程度となると予測され、環境基準を満たすものとなる。

また、遮音壁を設置することによって、排出源の位置が高くなり、拡散が一層進むため、沿道での二酸化窒素等の濃度が低減される効果もある。環境大気中には存在しないトレーサーガスを使っての実験では、遮音壁によりトレーサーガスが遮へいされ、上方に拡散していく状況を呈し、この傾向は遮音壁が高くなるとより明確に現れ、道路からの距離が離れるにつれて、遮音壁の影響は小さくなり、平面道路の濃度分布に近づいていくことが確認されている。このように、遮音壁は、騒音対策のみならず、大気汚染対策としての効果もある。

(二) 他に、道路構造の改善による騒音対策として、低騒音舗装の利用が考えられるし、最近では、光触媒による窒素酸化物浄化建材の実用化の研究が進められており、遮音壁の素材として用いることも考えられる。

(三) 本件環境影響評価書においても、道路構造による対策を講ずる場合には、沿道土地利用の動向、交通量の推移による騒音・大気汚染の状況等地域の状況を十分ふまえて実施していくものとするとし、当事業の工事中及び供用開始後、予測し得なかった著しい影響の発生により問題が生じた場合は、必要に応じて環境に及ぼす影響について、地方公共団体等公的機関の協力のもとに適切な措置を講ずるものとしている。

2  したがって、前記認定の本件バイパスの供用に伴って生じる大気汚染及び騒音の程度に照らせば、以上のような対策を講じることによって、本件バイパスの供用に伴う環境の悪化を防止することは十分可能である。

3  この点、原告らは、本件環境影響評価には遮音壁について高さの記載しかないから、どの程度の効果があるか不明であり、むしろ遮音壁の近くでは空気の渦による巻き込みが生じ、かえって汚染濃度が高くなる可能性があると主張する。

しかし、前記認定のとおり、遮音壁の騒音低減効果は主に回折減衰効果に基づくものであるから、騒音低減効果の判定の上では遮音壁の高さが重要な要素である。その他の条件、例えば材質等については、現実に遮音壁を設置するまでの間の技術革新によって、遮音壁の材質、厚み等が変わり得るから、これを記載することにそれほど意味があるものともいえないし、少なくとも、本件環境影響評価の予測は、予測当時に一般に用いられている遮音壁(吸音タイプ、厚み9.0センチ程度)の設置を前提としているものと考えられる。

また、原告らが指摘する「巻き込み現象」は、未だ科学的に十分解明されているものとはいえないし、ごく短時間に発生するものであるから、これがために一日平均濃度に影響を及ぼすものと認めることはできない。

七  結論

以上のとおり、本件バイパスの建設及び供用によって生じる大気汚染の程度は環境基準を下回り、騒音については遮音壁の設置によって環境基準を下回る程度のものとなり、これによって原告らの生命・身体の安全に対して差止めを要するほどの具体的危険性が生ずるものとは認め難いこと、北勢バイパスの建設及び供用には高い公益上の必要性及び公共性が認められ、かつ、路線の選択も右目的に沿う合理的なものであることなどに照らせば、本件バイパスの建設・供用による被害の程度は原告らにとって受忍限度内のものと認められるから、これが原告らの生命・身体等の人格権を違法に侵害するものであるということはできない。

よって、本件バイパスの建設の差止めを求める原告らの請求には理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山川悦男 裁判官新堀亮一及び裁判官藤井聖悟は、転勤のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官山川悦男)

別紙1〜17<省略>

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